『銀河の一票』と、佐野さんと私と、アジフライとロールキャベツ
佐野亜裕美 | 映像と記憶

『銀河の一票』と、佐野さんと私と、アジフライとロールキャベツ

今回は「制作日誌」の大番外編として、なんと『銀河の一票』の脚本家である蛭田直美さんが台本作りの思い出を特別寄稿してくださいました!

蛭田直美(ひるたなおみ)
脚本家。2014年第39回城戸賞・準入賞。ドラマ『銀河の一票』『舟を編む〜私、辞書つくります〜』『しずかちゃんとパパ』アニメ『Turkey!』映画『五億円のじんせい』など。

キャスト、スタッフ総勢百人超となるテレビドラマでも、始まりは大抵、プロデューサーと脚本家の二人ぼっちです。

「こんなドラマがつくりたい!」という『企画』を、
①プロデューサーが脚本家に提案。
②脚本家からプロデューサーに提案。
③ゼロから二人で、「どんなドラマつくります?」とわくわく話す。
このどれかから始まることが多いです。
(俳優や監督発の場合もあり、映画は監督発が多い印象←私調べ)

『「映像と記憶」の扉』でおなじみ、プロデューサーの佐野亜裕美さんと私は、まず、③でした。東京ではない私の家の近くの小さなカフェに、佐野さんは何度もはるばるやって来てくれて、二人で沢山沢山話をしました。
好きなこと、好きなもの、苦手なこと、苦手なもの、許せないこと、これまでのこと、家族のこと、気になってること、嬉しかったこと、悔しかったこと、面白かったこと……
思いつくまま、脱線しながら、ドリンクをお代わりし、途中でケーキも投入し、何時間も延々と、二人で話し続けました。
毎回結局、企画の話まで行きつけず、それを詫びる私に、「いえ、とても大事な話ができました」と、きっぱり言ってくれる佐野さんの凛々しさよ。
そう、佐野さんの声と口調は実に凛々しいのです。特に、重要な何かを告げてくれるここ一番のときは、それはそれはもう惚れ惚れするほど……重要なことを告げてくれているので、惚れ惚れしている場合ではないのですが……
そしてある日、いつもの窓際の席で、佐野さんは最高に凛々しい声で言ってくれたのです。

「選挙のドラマをつくりませんか?」
それが、今日(これを掲載していただく予定の、2026年6月29日)、最終回を迎えるドラマ、『銀河の一票』の始まりでした。
『何かしらの理由で政界を追放された主人公の女性と、政治経験のない女性が都知事選に挑むバディもの』という構想に、おお!面白そう!とわくわくするも、「うーん……いやー……私じゃない方が良いのでは……」と完全に腰が引け、もにょる私。

ちょうどそのとき私は、諸事情で急遽第四話から参加することになった『日本一の最低男』というドラマの脚本を書いていました。
香取慎吾さん演じる主人公が色々あって、とある選挙に出馬するお話(ネタバレを避けようとしたらなんだか雑な説明になってしまった)。
まだ佐野さんにそのことを話していなかったので、偶然の一致にびっくりしつつ、私が担当する回はまだ選挙戦が始まっていないパートなのに (最終的に選挙戦パートも書くことになるのですが、そのときはまだ知らず)勉強しなければ書けないことが多くてひーひー言っていたので、政治と選挙が真ん中にくる脚本を全話一人書くなんて絶対無理、とびびってしまったのです。恥ずかしながら、政治にも選挙にも興味関心を持たずに生きてきてしまったので。
遠いことだと思っていたんです。変えたくてもどうせ変えられない、手は届かない、だったら知らない方が気が楽だと、ずっと本気で思っていました。
「知らないことは書けないから、私には無理だと思います……もっとふさわしい方がいらっしゃると……」と、もにょもにょしている私に、「蛭田さんです。蛭田さんに書いてほしいんです」と言ってくれた佐野さんの凛々しさよ。

それでもすぐに覚悟を決められず、数週間悩んで、あーやっぱりやりたいな。佐野さんとドラマをつくりたい。知らないことは書けないなら、知ればいいじゃん、頑張ろう、と思えたのは、あの延々と二人で話した日々があったからでした。

『バディもの』は、孤独と孤独が出逢う物語だと私は思っていて、その『孤独』とは物理的なものでも、全体的なものでもなくて、とても密やかな心のある一点で、私は勝手ながら、あの日々の中、私のそのある一点と、佐野さんのある一点が出逢った気がしていたんです。だから、佐野さんとドラマがつくりたかった。誤解を恐れずに言いますと、佐野さんとつくれるなら題材は何でもよかった。佐野さんが選挙のドラマをつくりたいと言うのならつくろうじゃないですか。佐野さんがつくりたいドラマを私もつくりたい。
だって、出逢ってしまったから。
そう覚悟を決めて挑んだものの、当然のごとく大苦戦する私に、「私に出来ることはなんでもします」と言ってくれた言葉通り、佐野さんはもう本当に、何でもしてくれました。
知らないと書けない私が数行のセリフを書くために、何人もの方に会って話を聴いて、本を読んで、ドキュメンタリーや動画を観て、資料にまとめてくれました。
何度も何度もあのカフェに来てくれて、私の大量の質問や疑問に答えてくれたり、何時間もブレストしてくれました。

脚本を書いたり考えたりしているときは、どうしても心をむき出しにする必要があって、それをプロデューサーの前でも出来るかどうかが、私にとっては脚本の生死を分けると言っても過言ではないのですが、佐野さんは当然のようにむき出しの私を受け入れてくれて、多分きっと、佐野さんもむき出しでいてくれました。
だから私はいつも安心して、『面白いものをつくる』ということを最優先に、あまり言葉も選ばず自由に話して、聴いて、泣いて、怒って、ちょっとケンカみたいにもなったりもして、間違えて、謝って、笑い合って、喜び合って、その都度もらった宝石でネックレスを作るように、その全部を使って書きました。

二人で始めたドラマに、一人、また一人と最高に頼もしい仲間が集まって来てくれて、その度に二人で喜び合いました。それもまた、脚本に書きました。

カフェの二階が食堂になっていて、そこでお昼ご飯を食べてから、カフェに降りて本打ち(脚本の打ち合わせ)をする日が大好きでした。私は外食でメニューを選ぶときは、自分で作るのが大変なものにすることにしていて、ほぼ毎回ロールキャベツを食べていました。佐野さんは巨大なアジフライ。いや、他のものも食べてらしたはずなのですが、巨大なアジフライを食べる佐野さんがなぜかとても印象に残ってます。

食堂では大抵、脚本やドラマとは関係のない他愛ない話をして、あははと笑って、私はロールキャベツを、佐野さんは巨大アジフライを食べていました。今、その光景を思い出すと、なんだか泣きそうです。楽しかったのです。
だから私は、『銀河の一票』の中に、茉莉とあかり(主人公とその相棒)が二人で笑い合いながら何かを食べるシーンを沢山書いたのかもしれない、と今思いました。
誰かと無防備に、笑いながら何かを食べるということは、心身の命を同時に満たすということで、もはや奇跡なのかもしれません。

第一話のラストで、黒木華さん演じる茉莉が、野呂佳代さん演じるあかりに、「都知事になりませんか?」と凛々しく問うシーンから物語が大きく動き出すのですが、私も佐野さんに「選挙のドラマをつくりませんか?」と凛々しく問われたときから、確実に何かが大きく動き出しました。
そして確実に、私史上一番、現場に迷惑をかけてしまいました。自分でも驚くほど書くのに時間がかかってしまったのです。書けなかったわけではなくて、書きたいこと、書くべきことがありすぎて。
「知らないことは書けない。だからこれは私には書けない」と思っていた自分が信じられないくらい、溢れて溢れて止まらなくて、書いては切って、書いては切って、書いては切って、何を諦めるべきか迷って迷って……きっとその間、佐野さんは色々なところに沢山頭を下げてくれて、キャスト、スタッフの皆さんにも大変な思いをさせてしまって、もしかしたら私は手を離すべきなのかも、もっと早く書けるどなたかに書いていただいた方が現場とドラマの為になるのかも、と何度も思ったけど、佐野さんは絶対に私の手を離さないでいてくれて、現場の皆さんも最後の最後まで待ってくれて、最後の最後まで全力を尽くしてくれました。

最終回の最後の一行を書き終えて、文末に『つづく』ではなく『おわり』と書いた瞬間、蛇口をひねったみたいに涙がどーっと出て来て、五分くらい止まりませんでした。達成感なのか、開放感なのか、申し訳なさなのか、安堵なのか、寂しさなのか、多分全部。

そんなドラマが今日、終わってしまいます。

ドラマを最後に面白くしてくれるのは、観てくださる方の感性だといつも思っています。
あなたに観ていただけて初めてドラマは完成するので、『銀河の一票』、ぜひご覧いただけたら幸せです。届きますように。

ああ……。苦労話は絶対書かない、そんなのドラマを観てくださる方には関係ないし失礼……と思っていたのにめちゃくちゃ書いてしまった。ついむき出しになってしまった。
読ませてしまってごめんなさい。読んでくださってありがとう。あなたに何かいいこと三つありますように。いや、三つ以上、いくらでも、延々とありますように。

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