献立づくりの現場から見える「食」と「命」の話
あの人のおいしさ

献立づくりの現場から見える「食」と「命」の話

施設の食堂に並ぶ、あたりまえの一食。
けれどその裏側には、誰かの体調を想い、季節を感じ、ほんの小さな変化にも目を配る人の仕事があります。株式会社アルス 営業推進部 献立作成課で献立づくりを担当する、豊田桃加さんと中島未来さん。高齢者施設や病院の「毎日」を支えるその仕事には、派手さはありません。それでも、確かに“命に触れる仕事”が、そこにはありました。

献立をつくる、ということは「食べる人の一日を想像すること」

豊田さんの仕事は、特別養護老人ホームを中心とした献立作成。月ごとの献立を提出し、施設とやり取りを重ねながら、内容を何度も検討・修正していきます。治療食にも対応し、一日三食、365日続く食事を支えています。

豊田さん
献立って、ただ栄養基準を満たせばいいわけではないんです。その方の一日の流れや、食べるときの気持ちまで想像することが大切だと思っています。

月間献立表やポスターの制作、社内での定期試食会、新商品の改良検討。事務作業も含めると業務は多岐にわたりますが、軸にあるのはいつも‘食べる人’。

オイシサノトビラ
最近の施設とのやり取りでは以前とは異なるご要望も増えていると伺いました。

豊田さん
「魚料理が多いですね」と言われることがあります。

たんぱく質量を確保するため、昼・夕どちらかには魚料理を入れたい。けれど、食べる側の“感覚”も大切です。

豊田さん
最近は、魚の代わりに食べやすい卵料理や豆腐料理をメインにする日を、週に1回ほど入れるようにしています。栄養と嗜好、それは時代によっても個人によっても変化するもの。その間で揺れながら、最適解を探す日々。献立づくりは、数字だけでは語れない仕事です。

この仕事を続けていてよかったと感じる瞬間

オイシサノトビラ
日々試行錯誤を重ねながら献立作りに向き合われているなかで、どんな時に特にやりがいを感じますか?

豊田さん
月に2〜3回ある行事食ですね。いつもの食事とメリハリがついて、“今日は特別だな”って楽しんでもらえる。

高齢者施設や病院では、一日三食すべてを考える必要があります。食材が重ならないよう工夫し、麺や丼ものは月ごとに変えて、マンネリを防ぐ。そしてその中で、季節の変化や日本ならではの文化を感じていただけるような行事食を織り込むことで、単調になりがちな施設や病院でのお食事も、その時間自体が楽しみにしていただけるようになるそう。

豊田さん
大変ですけど、考えがいがあります。

最近では、AIによる献立作成にも期待しているそうです。しかしそれは単純な効率化とは異なる理由。

豊田さん
時間が短縮されれば、もっと“人に向き合う部分”に力を注げるから。

食は、特別じゃなくていい

給食の現場だけでなく、生活者全体の「食」を見渡したとき、豊田さんが感じる課題は少なくありません。欠食が増えること、食材価格の高騰で野菜や果物が後回しになること、バランスの取れた食事を手作りする難しさなど。そんな中でも豊田さんが伝えたいことは、とてもシンプルでした。

豊田さん
美味しいものを外食で楽しむのは、全然いいと思うんです。忙しい日は、お惣菜で済ませてもいい。

ただ、“バランスを意識する日”を少しずつ増やしてほしい。一汁三菜、食事バランスガイド、なるべく同じ時間に食べる、など聞いたことのある言葉を、思い出すだけでもいい。

オイシサノトビラ
豊田さんご自身は食事で何か意識していることはありますか?

豊田さん
“今、自分が何を食べたいか”を大事にしています。無性にヨーグルトが食べたくなる日。やさしい味の野菜の煮物や、出汁のきいた料理が恋しくなる日。体が欲しているものって、意外と正直だなと思って。汁物も欠かせない存在です。寒い季節や、胃腸が疲れていると感じたときには、特に。給食の“さつま汁”の美味しさが、忘れられないんです。

食事とは何か、と聞かれたら

豊田さん
命、ですね。

毎日欠かせないもの。体をつくり、今日を生きるための土台になるもの。献立表の向こう側にある、たくさんの生活と人生を想いながら、今日もまた、一食一食が静かに組み立てられています。

同じく高齢者施設での献立作りに従事される中島さんにも日々のお仕事とご自身の食事との向き合い方について伺いました。

ひとつの献立が出来上がるまで

中島さんの仕事は、自社製品を使った老人ホーム向けの献立作成。特別養護老人ホーム、老健、有料老人ホーム—— 施設ごとに特徴は異なります。

中島さん
それぞれ条件や考え方は違いますが、社内でなるべく統一した献立が作れるよう、担当者と連携しています。

現場の負担を減らしながら、安定した品質を保つ。そのためには、個人プレーではなく“チーム”での調整が欠かせません。給食の現場を取り巻く環境は、年々厳しさを増しています。

中島さん
食材の価格も、人件費も、毎年すごいスピードで上がっています。でも、それ言い訳にして提供する食事に妥協があってはいけないと思っています。

給食のコストは確実に上がっている。一方で、食事に対する認識や期待との間に、ギャップが生まれている。その狭間で、現場は静かに踏ん張っています。

オイシサノトビラ
この仕事を続ける原動力は何でしょうか?

中島さん
やりがいというより、勝手な使命感かもしれません。自社の献立や商品が、施設の負担を減らすこと。そして、その先にいる利用者の生活が、少しでも良くなること。一から手作りしていた現場も経験しているので、その大変さが本当によくわかるんです。だからこそ、給食が“回り続ける”仕組みを守りたい。それが結果的に、多くの人の健やかな生活を支えることにつながると信じています。

選ぶことの難しさ

手作りがいい。冷凍食品で時短。糖質オフ、タンパク質強化、減塩、無添加、無農薬——。中島さんが感じる、今の食の大きな課題。それは「選ぶことの難しさ」でした。

中島さん
何を重視するかで、食の満足度は全然変わりますよね。正解がひとつではないからこそ、迷いは尽きない。「生きることに直結する『食』だから、課題はなくならない」そう感じる日々です。

仕事を離れれば、中島さんも一人の生活者であり、母親です。まだ幼い子どもを育てながら、仕事と食事に向き合う毎日には悩みも多いと聞きます。

中島さん
完璧は目指さず、手作りと既製品、そのバランスを自分の中でとるようにしています。二人の子どものうち、上の子は偏食気味。離乳食の頃から、食事には随分と悩んできました。

仕事、家庭、双方の食事に向き合う中で辿り着いた答え、それは、

中島さん
何を食べるかも大事だけど、美味しく、楽しく、笑顔で食べられることが一番だと思っています。

食事とは、人と人をつなぐもの

オイシサノトビラ
中島さんにとって食事とは?

中島さん
「人と人との繋がり」

同じ食卓を囲むこと。同じ献立を食べること。それは、言葉以上に多くのものを共有する時間なのかもしれません。今日もまた、誰かが何気なく口にする一食のために。中島さんは、静かに、確実に、給食という日常を支え続けています。

株式会社アルス 営業推進部 献立作成課 豊田桃加さん(写真左)/中島未来さん(写真右)

連載

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