ドラマ制作日誌⑭ キャスティング裏話・後編
ドラマ制作日誌⑭ キャスティング裏話・後編
佐野亜裕美 | 映像と記憶

ドラマ制作日誌⑭ キャスティング裏話・後編

地味に14回も書いてきた『銀河の一票』制作日誌も今回で最終回。1ヶ月に1本ペースで書かせていただいているので、14ヶ月、1年ちょっとの記録をつけていたことになる。私の中でドラマ作りというのは、長い長い目的地までの道のりを、少しずつ仲間を増やしながら歩いていく旅路のような感じがしていて、紆余曲折あり、何度も休憩したり、時には道を間違えて引き返して分岐点まで戻ったりしながら時間をかけて歩いてきた。目的地、なんて偉そうなことを言ったけれども、旅をはじめた時は実は明確な目的地などない。どこにあるかわからない黄金、まだ見ぬ景色を目指して旅に出かけた冒険家たちのように、欲しいものはあるけれどどこにあるかまだわからない、という状況で出発して、気づけば果てしなく遠いところまで辿り着いていた。そんな気分だ。
最終回の放送を終えたあとは、歩いてきた長い道のりを、飛行機や電車に乗って自宅まで戻るような感じ。『銀河の一票』も、最終回放送後、今日まで1ヶ月かけて、様々な乗り物を乗り継いで帰ってきて、今ようやく自宅に帰り着いて荷解きをしはじめたところ。この旅で拾ったりもらったりしたたくさんの宝物を見ながら、さあ次はどこに行こうかなと漠然と考えている(もちろん、その前にはじめた別の旅路はもうスタートしているのだけれど)

長かった旅を振り返りながら、この制作日誌の最後に、キャスティングの裏話をもう少しだけ書いて閉じようと思う。黒木さん、岩谷さん、彌十郎さん、松下さんと書いてきたので、次はシシド・カフカさん。個人的な出会いは2025年5月にヨーロッパ企画さんの舞台『リプリー、あいにくの宇宙ね』を観に行った時のこと。もちろんお名前は存じ上げていたものの、お芝居をちゃんと意識して観たことがなかったのだが、舞台後半、シシドさんが登場された時の場の支配力に本当にびっくりしてしまって、釘付けになってしまった。長い手足とよく響く声の色っぽさに、すごい方がいるなあ…と思っていて、でもこのドラマではご提案できそうな役はないかな、と思っていたところ、雲井蛍というまさにぴったりな役が蛭田さんによって生み出された。「ぶっ飛ばし蛍」という、非常に塩梅が難しい役をシシドさんが見事に演じ切ってくれて、個人的にはシシドさんの美しく長い指が描く手話の軌跡が大好きだった。待機場所でいつも美しい姿勢で本を読んでいらしたのが印象的だ。本当に隅々まで美しい方だった。

続いて三浦透子さん。いわゆる「**組」みたいな「いつメン」が苦手で、スタッフもキャストも毎回ゼロからそのドラマにあった方にお願いしたいなと思うので、ごくわずかな例外を除きあまり同じ役者さんやスタッフさんと仕事をすることがないのだけれど、”雨宮楓”という役が脚本に登場してから、この役を誰にやってもらったらいいのかずっとずっと思い浮かばず、全然別の用事で自分のスマートフォンのカメラロールを振り返っていた時に2022年10月にフランス・カンヌのMIPCOMに一緒に行ってもらった時の透子さんの写真を見つけ、いた!!!!と大興奮し、過去にご一緒したかどうかなんて関係なく、透子さんの”雨宮”が見たいとお願いした。自分の中でずっとぼんやりしていた”雨宮楓”という役が、透子さんのお芝居によってグッと近くにきてくれたなと感じる。今もこれからもものすごく楽しみな、すごい俳優さんだと思う。

最後に倉悠貴さんと渡邊圭祐さん。ドラマプロデューサーとしてどうかと思うのだが、10代後半〜30代前半の男性俳優さんに非常に、本当に非常にと言っておかしくないほど疎く、頑張って追いかけてはいるもののなかなか追いつけないため、この年代のキャスティングが出てくるといつもチーム内の詳しい方に何人か推薦していただく。知らない自分が知ったかぶりするよりも絶対に良い候補者一覧を作ってくださるのだ。その中で、倉さんは「スパゲティコード・ラブ」で、渡邊圭祐さんは「やんごとなき一族」でそれぞれ気になっていた方で、ここ最近の作品の出演部分を改めて見直してみた。倉さんはあの飄々とした、でも柔らかい表情が”昴”にぴったりで、渡邊さんはなんというか、登場すると花が舞う感じ、そこに舞台ができる感じ、というのが”透”にぴったりで、お忙しい二人だったがありがたいことに受けてくださった。倉さんは現場で松下さんとおすすめの調味料の話をしていて、お互いお取り寄せし合って報告しているのを目撃した。渡邊さんは黒木さんと塩レモンの話をしているのを目撃した。二人ともさりげなく現場にいて、さりげなく食の話をしていたのが、私のイメージする「若い男性俳優さん」とは違っていて、時代は変わっているのだなあとしみじみした。

ここに書けなかった俳優さん、自分でキャスティングしたわけではないが、新しい出会いをいただいた俳優さん、本当にたくさんの素晴らしい出会いが「銀河の一票」にはあって、両手で抱えきれないほどの宝物をもらったなと改めて感じている。次の旅路の新たな出会いに向けて、自分の力を蓄えていきたい。

わたしの素

連ドラ中に失っていた大きな「時間」が二つ。誰かからの連絡を気にせず家族と過ごす時間、そして友人たちと美味しいものを食べて他愛もない話をする時間だ。子供と平日に休みをとって映画館に行き、大好きな『魔女の宅急便』を観たり(暗さが怖いのと音の大きさにびっくりで30分でおしまいになったが)、思い立ってお弁当を持って稲毛海岸に行ってみたり、自分の人生でこんなことがあるんだなあという子供との時間を過ごしている。そして人生にどうしても必要な、友人たちとの美味しい食事とおしゃべり。仕事に一切関係のない、それぞれの家族のこと、恋のこと、誰かの噂話。最近観たドラマや映画の話。これ美味しいね、なんの味だろう?と今食べているものに時折目を向けながらする、他愛もない会話でしか得られない栄養が自分にはある。仕事もこういうことも、どちらもちゃんと大切にしながら生きていくためのバランス感覚を、身につけたいものだ。

ドラマ『銀河の一票』制作日誌

①精神と時の部屋
②直感と戦略
③エコなやりかた
④島根の山の神
⑤現実逃避
⑥つなわたり
⑦忙しない
⑧未体験ゾーン
⑨犠牲
⑩まだまだ続く現場の日々

⑫殴りにいく
⑬キャスティング裏話・前編
⑭キャスティング裏話・後編

特別寄稿:蛭田直美(脚本家)
『銀河の一票』と、佐野さんと私と、アジフライとロールキャベツ

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