本のすみか(大阪)
大阪・北加賀屋にある「本のすみか」の店主・小林さんに、この季節におすすめしたい本やその一文など、日々の過ごし方のヒントにつながる話をうかがいました。
──── 本のすみか
大阪・北加賀屋の「本のすみか」は、本を買う場所というより、自分の感覚で本と出会い直せる場所です。新刊、古本、ZINEが並び、気負わず手に取れる一方で、店主の選書にはまなざしの確かさがあります。普段は本をあまり読まない人にも開かれていて、「読んでみたい」と思わせる入口があるのも魅力です。飲食店のある複合施設の中にあることも相まって、本を読む時間が日常のなかに生まれそうな場所です。
季節のおすすめ by 店主・小林さん
この季節におすすめしたい本
『夏子の冒険』三島 由紀夫 KADOKAWA/角川文庫
※カバーの絵柄は(株)かまわぬのてぬぐい柄を使用しています
雨の日が続き、少し気持ちが内向きになりがちなこの季節だからこそ、主人公の夏子と一緒に外の世界へ飛び出したくなります。夏子は無邪気で大胆な性格で、周囲の人々を振り回しながらも、自分の思うままに突き進んでいきます。その姿を見ているうちに、いつの間にか夏子のことが好きになり、つい応援したくなってしまうはずです。次々と起こる予想外の出来事と破天荒なストーリー展開が、鬱々とした気分をきっとスカッと吹き飛ばしてくれます。
好きな一文
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或る朝、夏子が朝食の食卓で、
「あたくし修道院へ入る」
といい出した時には一家は呆気にとられてしばらく箸を休め、味噌汁の椀から立つ湯気ばかりが静寂のなかを香煙のように歩みのぼった。
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これは冒頭の一文ですね。たった一言で主人公の性格がはっきりとわかる印象的なシーンです。食卓が一気に気まずくなる様子が鮮明にイメージできる面白い一文だと思いました。また「入りたい」ではなく「入る」と断定しているところに惹かれました。
あれこれ考えて足踏みしているときにこの一文を思い出します。「入りたい」ではなく「入る」と言い切る夏子の迷いのなさを思い出し、まずは一歩踏み出してみようという気持ちになることができます。この本は、自分の気持ちを大切にすることの大切さを思い出し、少し大胆な気持ちになります。夏子のように、周りを気にしすぎず自分の心に従ってみようと思える一冊です。
──── オイシサノトビラでは、食べものの味そのものだけでなく、それを囲む時間や空気、そこで生まれる記憶まで含めて「オイシサ」と考えています。本の中で描かれている「オイシサ」で小林さんが好きな本を教えてください。
オイシサが描かれている本
『毎日のことこと』 著:高山なおみ(信陽堂)
若葉でいっぱいの季節にミルクパンでいり卵を作ったり、夏のはじまりに、山が見える玄関先で果物入りのヨーグルトを食べたり、香ばしい天気が続いている秋に栗ジャムを煮てみたり。季節ごとの日々のできごとに自然に溶け込んだ食や料理のエピソードにオイシサを感じます。食がメインのエッセイ集ではないので、食べる描写自体はそこまで多くありませんが、何気ない食のエピソードだからこそ身近に感じられ、読んでいるとこちらまで台所の匂いが漂ってくるようです。
高山さんが親戚のお宅で、ナンプラー、酒、きび砂糖、スイートチリソースとおろしにんにくを合わせたタレに鶏手羽先を浸け込んで、オーブンで香ばしく焼いたものが甥っ子たちに大好評だったというエピソードがあります。未だに作れていませんが、いつか作って食べてみたいと思います。
──── さいごに、小林さんらしい「オイシサ」について教えてください。
私にとっての食の思い出は「何を食べたか」よりも「誰と食べたか」に結びついている気がします。
食にまつわる思い出はあまり多くありませんが、大学時代の文化祭で部活動の仲間たちと大鍋で作った豚汁や、部活動の一環として行ったキャンプでみんなで作った、おこげたっぷりのカレーライスが想像以上においしくて感動したことが印象に残っています。料理経験がほとんどなかったからこそ、おいしく作れたことが嬉しかったのかもしれません。特別なごちそうではありませんが、一緒に作って食べた時間ごと記憶に残っているんです。
本のすみか
大阪市住之江区北加賀屋2-4-2 NAGAYArt No.3
営業時間・定休日:不定休(SNSまたはウェブサイトにてご確認ください)
Instagram:@honno_sumika
本屋のススメ
twililight(東京)
本屋であり、ギャラリーであり、カフェでもある、文化をゆるやかにつなぐ場所。新刊書店だけでなく、古本やレコード、シャツや靴下、オリジナル商品も扱っています。出版やイベント、選書の仕事も手がけ、ここを訪れると、本を選ぶ時間に加えて、誰かの感覚やまなざしに触れる楽しさがあります。
BOOKSHOP TRAVELLER(東京)
独立書店を応援する活動「BOOKSHOP LOVER」主宰の和氣正幸さんが営む、「本屋のアンテナショップ+新刊書店」です。全国の実店舗のある本屋に加え、イベント出店やZINE、出版社、ブックカバー作家など、本に関わるさまざまなつくり手が棚をつくり、ここでの出会いをきっかけに各地の本屋へ足を運んでもらうことを目指しています。
BREAD & ROSES(千葉)
本を売るだけでなく、読む人の気持ちに寄り添う姿勢がはっきりした本屋です。店名には、Bread(パン=生きる糧)とRoses(バラ=誇りや尊厳)という意味が込められ、「人が生きていくうえで必要な本」を扱うという思いが示されています。
BOOKS&FARM ちいさな庭(岐阜)
本と農作物をあつかう小さな店です。農園では農薬や化学肥料、除草剤を使わずに育てた作物を並べ、本と食がゆるやかにつながる場をつくっています。本を選ぶ楽しさと、土のある暮らしの気配が同じ場所にあるのが、この店の魅力です。
栞日(長野)
独立出版を中心に扱う新刊書店であり、喫茶や展示室も併設した、本との時間をゆっくり味わえる場所です。売れ筋だけに寄らず、書き手の思いや考えが託された本を選び、読み手へ手渡すことを大切にしているのが特徴です。
恵文社一乗寺店(京都)
本を買うためだけでなく、本と過ごす時間そのものを楽しめる本屋。棚には、店のまなざしで選ばれた本が並び、文学や暮らし、絵本、雑貨まで、ページの向こうにある日常の気配がゆるやかにつながっています。目的の一冊を探すだけではなく、思いがけない本との出会いがあるのも魅力のひとつです。
ホホホ座浄土寺店(京都)
銀閣寺や法然院、哲学の道からほど近い静かな住宅街にある本屋です。1階には新刊書、斜め前の浄土寺センターには古書が並び、雑貨は作家ものを中心に、陶器や文房具、衣類まで幅広く扱っています。
本のすみか(大阪)
本を買う場所というより、自分の感覚で本と出会い直せる場所です。新刊、古本、ZINEが並び、気負わず手に取れる一方で、店主の選書にはまなざしの確かさがあります。普段は本をあまり読まない人にも開かれていて、「読んでみたい」と思わせる入口があるのも魅力です。
本屋ルヌガンガ(香川)
棚を見渡しやすい空間を生かして、思いがけない本を手に取るきっかけをつくってくれる本屋。読書会やトークイベントも開かれ、本を買うだけでなく、本を通じて人や考え方に触れられるのも魅力です。
本のあるところ ajiro(福岡)
海外文学や詩歌を中心に、本好きが集まる場としてつくられた書店兼カフェです。運営は福岡の出版社・書肆侃侃房で、店内には自社書籍のほか、一般の書店ではあまり見かけない本も並びます。トークショーや読書会、歌会などのイベントも開かれており、本を買うだけでなく、言葉にひたる時間を過ごせるのが魅力です。
MINOU BOOKS(福岡)
耳納連山の麓・うきは市で始まり、いまは久留米にも店を構える、本屋とカフェのある書店です。衣食住にまつわる本からアートブックまで、「暮らしの本屋」をテーマに、日々の生活に少し彩りを添える一冊を選んでいるのが魅力です。