MINOU BOOKS(福岡)
本屋のススメ

MINOU BOOKS(福岡)

福岡にある「MINOU BOOKS」の石井さんに、この季節におすすめしたい本やその一文など、日々の過ごし方のヒントにつながる話をうかがいました。

──── MINOU BOOKS
福岡のMINOU BOOKSは、耳納連山の麓・うきは市で始まり、いまは久留米にも店を構える、本屋とカフェのある書店です。衣食住にまつわる本からアートブックまで、「暮らしの本屋」をテーマに、日々の生活に少し彩りを添える一冊を選んでいるのが魅力です。うきは店では土地の空気を感じながらゆっくり本を選べて、久留米店では書籍のフェアやイベントを通して、本をきっかけに人や文化がつながっていきます。読むことを、暮らしの延長として楽しめる場所です。


季節のおすすめ by 石井さん

この季節におすすめしたい本
『山のパンセ』 著:串田 孫一(岩波書店)

山や自然の中に行くのが好きなのですが、雨が多くて外に出かけるのが難しいこの季節、家のなかで雨音を聴きながら静かに読みたくなる本です。

好きな一文
-
この村はどこに特徴があるというのでもないし、東側から左手で抱き込むように出ている尾根にしても、ところどころに私が腰を下ろしているのと同じような岩が露出しているだけで平凡なものである。だが太陽は秋になると暫くのあいだ、この村が好きで好きでたまらなくなると言った、優しさがこぼれたような光をそそいでいる。
ここは恐らく太陽にとっては秘密の土地であるに違いない。そこに昔ながら住んで土を耕している者たちは、そんなことに気もつかずにいるかも知れない。それを、たまたまここを通り過ぎて行く私が、僅かの憩いの時間だけ、優しく高貴な光を浴びるのを許してもらえたのだろう。
-

自然のなかにいると、ある日、ある場所、ある時間に、どうしようもないほどの幸福感に包まれることがごく稀にあります。
その言葉にできないような感覚を、「太陽は秋になると暫くのあいだ、この村が好きで好きでたまらなくなると言った、優しさがこぼれたような光をそそいでいる。」「ここは恐らく太陽にとっては秘密の土地であるに違いない。」と、瑞々しく表現されているところがとても好きです。
自然のなかで、素晴らしい偶然が重なり合ったような美しい時間に出会えたときに思い出します。

──── オイシサノトビラでは、食べものの味そのものだけでなく、それを囲む時間や空気、そこで生まれる記憶まで含めて「オイシサ」と考えています。本の中で描かれている「オイシサ」で石井さんが好きな本を教えてください。

オイシサが描かれている本
『おだしのシアワセ』 文:一井伸行 絵:マメイケダ(BOOKLUCK Publishing room)

おだしの材料である昆布と鰹節の生産者をめぐる紀行エッセイなのですが、鰹節工場の人たちが楽しく働いている姿を通して、「仲良く楽しく作る。」ことこそが鰹節が美味しい理由なんだと語られている箇所が、とても印象深く心に残っています。自分でも、昆布と鰹節を使って丁寧に美味しいお出汁をとりたくなります。

──── さいごに、石井さんらしい「オイシサ」について教えてください。

先日、沖縄旅行へ行ったときのことです。街で見つけたとても素敵な映画館に立ち寄りました。
そこは映画の上映だけでなく、本や焼き物、地元の作家さんが作った工芸品がセンスよく並び、その合間を縫うようにゆったりとしたテーブルが置かれた、心地いいカフェスペースが併設されていました。旅行中でしたし、映画を見る予定もなければ、食事はどこか別の郷土料理のお店で……と考えていたはずでした。
しかし、そのあまりにも魅力的で文化的な雰囲気にすっかり心を解きほぐされてしまい、気づけば欧風カレーとビールをオーダーしていました。やちむんの器に盛られた深いコクの欧風カレー、小皿に添えられたピクルス。そして琉球ガラスの涼しげなグラスと、しっかり冷えたエビスビール。思いもよらず、いま私は旅先の映画館でカレーを食べているというその時間が、たまらなく美味しく、愛おしく感じられました。
旅先では、ついその街の名物を食べようとお店を探しがちなものですが、私はどちらかと言えば、その時の自分の直感や、好きな雰囲気、心地よさを優先してしまうところがあります。結果的に名物にはありつけないことの方が多いのですが、そんな風に自分の好きに素直に流されて出会う食こそが、私にとってのおいしさであり、自分らしい選択だなと感じるからです。

MINOU BOOKS
福岡県うきは市吉井町1137
営業時間:11:00~18:00
定休日:火曜
Instagram:@minoubooks

連載

おいしさってなんだろう?をテーマに
その人らしい"おいしさ"をもつ
筆者たちの連載をお届けしています。

おすすめ