恵文社一乗寺店(京都)
京都・一乗寺にある「恵文社一乗寺店」で生活館フロアを担当する嶋本有里さんは、雨の多い季節になると、いつもより匂いや音に敏感になるのだそうです。そうした感覚と少し向き合える時に、本を開いてみてはいかがでしょうか。
──── 恵文社一乗寺店
京都・一乗寺にある「恵文社一乗寺店」は、本を買うためだけでなく、本と過ごす時間そのものを楽しめる本屋。棚には、店のまなざしで選ばれた本が並び、文学や暮らし、絵本、雑貨まで、ページの向こうにある日常の気配がゆるやかにつながっています。目的の一冊を探すだけではなく、思いがけない本との出会いがあるのも魅力のひとつです。静かに本を選ぶ時間も、店内を歩くひとときも心地よく、訪れるたびに少し気持ちが整うような場所です。

季節のおすすめ by 生活館フロア担当嶋本さん
この季節におすすめしたい本
『雨犬』 版画:柳本 史/文:外間隆史 共著 (未明編集室)
作品全体に漂う静謐な雰囲気が、静かな雨の日にぴったりだなと感じます。個人的に、雨の日はなぜか匂いや音への感覚がいつもより少し敏感になる気がします。ペンキ、コーヒー、泰山木の香り。雨の音、静かなレコードの音、詩を読む微かな声…。この本で描かれるそれらは、控えめに、けれどたしかに私の体へ届いて、心地よいなと思います。この本を通して自分の感覚に素直になるような、そんな体験をしていただきたいなと思い、おすすめさせていただきました。

好きな一文
「ぼくは雨犬。雨そのものもいいけど、雨の降る日が好き。」
雨は、人によっては少しマイナスなイメージがあると思います。お出かけしにくいし、濡れると嫌だし…。だけど、雨の日にしか味わえないものもある。ただ雨に降られるのではなくて、雨を感じて生きることができたらいいなと、雨犬を読むと思わされます。この一文は、感じる力を思い出したいときに、ふと浮かぶことが多いです。
私にとっては、この作品についてどこかほのあかるい印象もあって、透明感を感じます。なので、もし「雨犬」を読むなら、夜更けよりは、まだ少し薄暗い明け方のイメージでしょうか。自室や静かな喫茶店、自分自身が落ち着くなと感じる居場所で、読んでいただくといいのかなと思います。
──── オイシサノトビラでは、食べものの味そのものだけでなく、それを囲む時間や空気、そこで生まれる記憶まで含めて「オイシサ」と考えています。本の中で描かれている「オイシサ」で嶋本さんが好きな本を教えてください。
オイシサが描かれている本
『ぐりとぐら』中川李枝子・大村百合子(福音館書店)
『ぐりとぐら』は、王道中の王道ですが、何度読んでもオイシサを感じられる絵本だと思います。ぐりとぐらだけでは食べきれないほど大きなカステラは、あったかくて、ふわふわで…。そこに集まってきた仲間たちと分け合って、みんなが笑顔になる。そのひとつの物語が、ただ「おいしそう」というだけではなく、読むたびあたたかい気持ちを運んでくれるんです。何度も読み返したくなるのは、食べものそのものの魅力だけではなくて、その場のしあわせな空気まで描かれているからだと思います。この本を読んで思い出す味や食べ物は、やっぱりカステラですね。

──── さいごに、嶋本さんらしい「オイシサ」について教えてください。
幼い頃、よく祖母の家にお泊まりをしました。朝ごはんの一品としていつも出してくれたのが、ポン酢たまご。これは、深めの小皿に卵を割って、レンジでチンして、固まったらポン酢をひとまわしするという名もなき料理なのですが、私はこのポン酢たまごがやたらと好きでした。一人暮らしをするようになってからも、小腹が空いた夜なんかに食べています。 それがどうして私らしいかと言うと、祖母の家で食べる朝ご飯が、当時の私にとってはすこしだけ非日常で、特別なものだったんです。祖母は料理上手で、遊びに行くたび美味しいご飯を振舞ってくれたので、思い出すのがこの料理!?と思うかもしれませんが…。今でも食べるたび、祖母とのあたたかい記憶を思い出します。なんてことのない料理ですが、すごく個人的な、自分らしい「オイシサ」があるなと思います。
恵文社一乗寺店
京都市左京区一乗寺払殿町10
営業時間:11:00-19:00(年末年始を除く)
定休日 :年中無休(元日を除く)
Instagram:@keibunsha_books