食事を空想するプロジェクト
SERVISER/食器類1
ガラス作家
山野アンダーソン陽子
ざっくりとした説明で申し訳ないが、和食は小皿に丁寧に分けられて盛り付けされ、味や色味がそれぞれで完結し楽しむのに対し、北欧ではワンプレートが主流。正式な晩餐会では大小違いのあるお皿が使用されるのだけど、レストランのランチや一般的な家庭料理では料理を大皿で振る舞って、ブッフェ式に自分のお皿に少しずつ取り分けてワンプレートにする。大皿に盛られた様子に加え、そのワンプレートに一緒に盛られた時の料理の色合いや味のコンビネーションがものを言う。行為が違うとお皿の形や大きさがだいぶ変わるのは言うまでもないけど、一体どんなことを気にして私たちは食器を選んでいるのだろうと想像してみた。
私の場合、木の器は使い込んで油染みがついて時間が経つほどに深みが出そうなものを選ぶのが好きだ。小鉢、パン皿などは何にでも使える大きさなのでいくつあってもうれしいのだけど、どんな大きさであれ質感の良さそうな木の器があると用途を考えずに選んでしまうことが多い。陶磁器は、よく作る料理を考えてその用途に適う食器を選ぶことも多いし、同じ料理でも食器によって違って見えることもあるので同じような内容量の見栄えの違う大皿を選ぶことも多い。銀食器は、楕円形の平皿が好きで、なぜかハムやチーズ、ピクルス、ステーキ肉を盛り付けるのによく使う。どこから来たアイデアかは定かではないが、きっとどこかのレストランで見たのかもしれないし、友人が使っているのを見たのかもしれない。クリアのガラス食器をふんだんに使う時は、盛り付けたものを置くためのテーブルクロスを特に意識する。ガラス食器にはサラダやカルパッチョ、ちらし寿司、フルーツやデザートなどフレッシュでジューシーなものを盛り付けるのに使うことが多い気がするけど、今、そう思っているだけかもしれない。
自分の展示会に在廊していると「これはどうやって使うのですか?」とよく質問される。日本だけでなく、イギリスでもスウェーデンでも他の国でも聞かれた経験があるので、定番の疑問なのかもしれない。あまりいい答えができていない気もしながら、自分の定番の使い方や人が使ってくれている使い方を説明するのだけれど、使い方は人それぞれだし、作り手が想像もできない使い方をしてもらえることに期待もしている。ボウルやキャニスター、ボディーの形の違うステムグラスのみならず、見た目に明らかなドリンキンググラスまで「何に使うのか」と疑問が生まれることを思うと、どうやら人は目の前にある食器に興味を持ち、それをもっと知りたくて、自分の生活でどうやって使いこなすかを気にしているのかもしれない、と思った。これを使ってみたい、と強く思ってもらえることは、とてもうれしいことだ。
先日、友人がアトリエにクリアガラスのボトルを選びに来てくれた。大きさや形の微妙に違うボトルを並べてみたり、何度も持ち上げてみたりして「何に使うのがいいかな?」と口髭を撫でながら明らかに困った様子。「何に使うかで見合う大きさや形が違うけど、例えばこれは、水やジュースを入れてもいいし、花器にも使える。」「口を大きく作ったからティーパックも入るし氷も入りやすいから冷たいお茶にも使える。」「これはボディーを細めに作ったから持ちやすくして、口も注ぎやすくした。」「こっちはコルクがハマるように口を小さく作ったから、スパイスや調味料を入れに。」「私は、このぐらいのボトルに食器洗剤を少しだけ入れてシンクの脇に置いている。」「取れたボタンを入れている。」「こういう広めのリムのボトルは鉛筆削りの受け皿にしてる。」など、ここにすべてを書き込まないが最終的にはかなりプライベートな使い道まで披露して伝えた。友人は、散々悩んだ挙句、結局「その時に飲む分だけのワインを入れる。」と言って私の提案などなかったかのようにワインボトル形の小ぶりのボトルを選んでいった。詳しく聞けば、食事の時にワインを1本飲む気はなく、グラスに1.5杯分ぐらい飲みたいらしい。そんな時は先に1.5杯分のワインをこのボトルに注いで小さめのワイングラスを持って食卓につくらしい。そんな個人的な癖を私が想像できるわけもなく、「何に使うのがいいかな?」の質問に真剣に取り組んで、伝えなくてもいいプライベートな使い方まで披露してしまった自分が少し恥ずかしくなった。それでも、「いいアイデアだと思わない?」と満足そうにする友人を見て、なんだかとてもうれしくなった。きっとみんな自分にしかない癖があって、自分に見合った食器を選んでいるに違いないと思った。
私も制作過程で挑戦的に作ってしまった食器から、どうやって使おうかと使い勝手を試行錯誤する場合もある。例えば、ガラスの厚みが薄くて背の低いボウルや楕円型に歪んだプレートなど制作工程が難しく苦戦しながら実験的に作ったものをどうやって何に使うかを試しながら自宅で使うことも多い。2〜3年経ってやっと使い慣れることもあって、その食器との関係性が築き上がった感じで愛着が湧く。それとは真逆な思考で、自分用のガラス食器を作る場合、まずは行為から「こんなものがあったらいいな」とある程度を形づけて制作する。私の場合、1つ1つ宙吹きガラスで制作できるので個性が出せる。自宅で使うワイングラスは、古い木製のテーブルに安定するように通常より少しだけ脚を太くし、そして、量はそんなに飲まないし、棚にも収まりがいいのでボディーを小ぶりに作る。チェイサーは、背の低いどちらかと言ったら「平たい」と表現できる150ml入るぐらいの厚みの薄いドリンキンググラスにしている。
磁器の食器をデザインする時の場合、もっと「量産」を思考する。やはり業務用の意識もあって、料理の見栄えはもちろん、食洗機にも耐えられる強度、サーブする指のやり場、スタッキングできてかさばらないデザインを考える。欲を言えば、制作工程で最終的な食器に少しの個性が出せたらいい。毎日使っていても癖のない飽きのこないものを意識している。
ヨーロッパでは、レストランのオーナーやシェフ、バーテンダーやソムリエと話し合って食器を作ることが多いのだけど、日本ではあまり経験がなく、日本で活動するプロの料理家はどんなことを気にして食器を選んでいるのだろう。とても気になっている。
SERVISER/食器類1
SERVISER/食器類2 前編
SERVISER/食器類2 後編
SERVISER/食器類3
Graphic Design:Tomoko Yamashita
Project
食事を空想するプロジェクト
ガラス作家
山野アンダーソン陽子
「空想の食事会計画」を通じて、おいしさの可能性をたのしく妄想していきます。