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カリフラワーのサラダ

今日もていねいに。の扉

カリフラワーのサラダ

ニューヨーク西65丁目のKさんのアパートに、料理を教わるという名目で、週に一度遊びに行くのがいつしか習慣になった。Kさんのアパートは歴史的建造物として有名だったが、とにかく古くて不便だった。それが良さといえばそうなのだが、エレベーターの遅さには辟易した。

エレベーターの入り口には「世界一遅いエレベーターです。急いでいる方は階段で上がりましょう。そのほうが早いです」と書いた紙が誰かのいたずらで貼ってあった。

「いらっしゃい! さて今日は何をしましょうか。料理をする? それともおしゃべり? テレビでも観る?」とKさんは僕にきいた。僕がその問いにすぐに答えないと、笑いながら「即答!」と返事を急かすKさんだった。「料理!」と答えると、「了解。何が食べたい?」と聞く。僕は自分の好きなものを思い浮かべて、「カリフラワー」と答えた。「カリフラワーね。ではエプロンをつけて、手を洗って」とKさんは言った。こんなふうに毎回、Kさんによる料理教室がはじまるのであった。

カリフラワーは生でもサラダにするとおいしいけれど、茹でると、もっとおいしいとKさんは教えてくれた。まずは鍋に水を入れ、お湯を茹でることから始まる。「切り分けたカリフラワーの下のほうが水に浸るくらいでいいわ。水も材料のひとつ。だから必要以上にたくさん使わないこと」とKさんは言った。僕は持ってきた自分の庖丁で、カリフラワーを食べやすい大きさに切り分けた。「同じ大きさに切るといいのよ。そうすれば茹でたときに同じ硬さになるからね。硬いのと柔らかいのがあるといやでしょう」。「はい、シェフ。わかりました」「いい返事!」とKさんはキッチンに立つ僕の背中を叩いた。
「沸騰した水にカリフラワーを入れて、鍋のふたをする。2分茹でたら全体をゆったりと混ぜる。そしてまたふたをして2分茹でて水を切る。これでやわらかさはちょうどいいはず。ふたをすることで、少ない水分で蒸されるからおいしく出来上がるわ」とKさんは言った。茹でながら蒸す。これがKさん流。僕はフンフンと納得しながら手を動かした。「水を切っても予熱で火が通るからね。だから少し硬めでいいの。そのくらいがおいしいわ」とKさんはつぶやく。
茹で上がったカリフラワーはふわりふわりと上がる湯気と一緒に、キッチンに甘い香りを漂わせた。Kさんは僕に味見を促した。「どう?」「やわらかくてこのままでもおいしい」「そうよ。このままでおいしいの。だけど、もっとおいしくするのが料理。今日はいちばんかんたんでおいしい料理を教えるわよ」。そう言ってKさんは微笑んだ。Kさんは冷蔵庫からアンチョビを持ってきて、「アンチョビを散らしてみましょう」と言って、小さく切り分けたアンチョビをボウルに入れたカリフラワーを加えて、「レモンを半分に切って」と僕に言った。僕はキッチンに置いた大皿からレモンをひとつ取り、半分に切った。「絞って全体にかけて」とKさんが言うように、アンチョビが加わったカリフラワーにかけた。「はい、味見して」とKさんは言った。
「料理は味見をすることが大事。何かをしたら常に味見すること。こうしたらこうなったということを覚えておくことね。それでおいしければそれで完成」。「まだ少し味が欲しい。何かが足りない」と僕が言うと「オリーブオイルをかけましょう」と言った。「今回はサラダだから、エクストラヴァージンを使いましょう」。そう言ってKさんは僕にオリーブオイルの瓶を渡した。どのくらい?と聞くように目を合わせてみると、「あなたが好きなだけ。自分で決めて」と言った。そのために味見をしているのよとKさんはじろりと目で答えた。

オリーブオイルを自分の好きなだけ全体にかけて、ざっくりと混ぜ合わせて、もう一度味見。「おいしい!」と僕は声を上げた。「塩はいらないでしょ。そのためのアンチョビよ」とKさんは言った。こんなにかんたんでおいしいカリフラワーのサラダが出来上がるなんてと僕は感動した。「これだけでは物足りなかったら、ゆで卵を作って、半分に切ったのを添えれば立派な一皿になるでしょ」とKさんは言った。
「さあ、食べましょう。料理は出来立てを食べるのがいちばん。そして、楽しくおしゃべりをしましょう。パンもあるし、チーズもあるわよ」とKさんはエプロンを外してテーブルを用意した。

「今度は何が食べたい?」とKさんは僕に聞いた。僕が「うーん」と悩むと「即答!」と言って笑った。
つづく

わたしの素

サラダはシンプルが好き。かんたんで手軽なキャベツのコールスローをよく作ります。キャベツは1センチ幅に切ってボウルに入れ、塩をまぶして少し置いてから、出た水を捨てたら、ミルで軽く挽いたキャラウェイシードをパラパラっとふりかける。作り置きしてあるフレンチドレッシング少々を和えたら出来上がり。フレンチドレッシングが無ければマヨネーズでも良し。切ったフルーツを合わせてもおいしいので、ちょっとした前菜にもなりますね。やわらかくて瑞々しい春キャベツで作ると、そのおいしさに手が止まりません。もちろんサンドイッチの具にもおすすめ。

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