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母と

人と時間の扉

母と

────大人になって両親と旅行することはありますか。
今回のお話は、お母さまと出かけた金沢旅行の話。二人の関係や母に対する想いを語る姿は、ファッションモデルのイメージとは違う一面の在原さんを見ることができました。二人で過ごした時間の話についてお届けします。


母とわたし

ご家族のことについては、これまでも何度かお話をうかがいました。食事や旅行のこと、とても仲の良い印象です。お母さまとはどのような関係なんでしょうか。

「家族は、両親と姉、わたしの四人です。その中でもなんとなくチームというのがあって、父と姉のペア、母とわたしのペアで出かけることが多いかもしれません。旅行でも父と姉の二人だけで行くこともあったりします。今回は母と金沢に行ってきました」

「母は昔からわたしの言うことに『いいね』って賛同してくれるんです。今回の旅行もそうでした。どこにでも付いて行くよって。たまに母からは『あなたの魂年齢には勝てないから』とか、親戚からは『人生何回目?』というようなことを言われることがあるんです。幼い頃から、親も周りも娘というよりは一人の大人として認めてくれているような感じです。魂年齢っていうのは、精神年齢みたいなものですかね・・・」

お母さまは今回の旅行を楽しみにしていたんじゃないでしょうか。

「母は一緒に旅行すると決まってから、観光本を買って付箋をいっぱいつけて楽しみにしていたようです。『わたし、ここに行きたい』って連絡してきたりして。兼六園や柳宗理記念デザイン研究所、ひがし茶屋街など・・・。母から送られてくるたくさんの行きたい場所を、わたしが地図アプリにピンして、向かう途中に気になるところを見つけたら立ち寄ろうという計画です。金沢に向かう新幹線の中でも、母はその本を復習していましたね。二人で出かけるときはだいたい『どこでもいい』ってなることが多かったんですが、以前から金沢は訪れたい地域だったみたいで、すごく楽しみにしていた分、張り切っていました」

「ふだんは、わたしも家族も車の運転が好きなので、車で出かけることが多いんです。でも、金沢は車で行くにはちょっと遠いので、久しぶりに新幹線を利用することにしました。母との待ち合わせは、よく『どこにいるの?』って迷子になって探し合うことが多いので、余裕を持って待ち合わせをしました。今回はちゃんと会うことができて、わたしの好きな地雷也さんの天むすを買って新幹線に乗りました。撮影を意識することなく食べ物を選ぶことができると『ああ、お休みの日だなあって』おいしくいただきました」

お麩とわたし

新幹線で好きな天むすを食べたとのことでしたが、金沢でもお母さまとの食事を楽しむことができましたか。

「夜ご飯は何にする?お寿司と金沢おでんのどっちがいい?って聞いたら、『あなたが食べたい方で大丈夫』という返答で。自分が食べたいものっていうよりも、あなたが行きたいところなら絶対大丈夫でしょ?という感じだったので、わたしが決めたんです」

「お鮨もいいなと思っていたのですが、夜ご飯はおでん屋さんにしました。お店で料理に使われる金沢の漆器がとても印象的でした。今回の旅行中に、母に最近の仕事の話とかをしたいなと思っていたのですが、母は完全に旅行モードで『この器、綺麗だね』とか、『この豆皿、かわいいね』とか、『これはどうやったらこういう味になるんだろう』とか、そんな話ばかりをしていました」

「席はカウンターを選んで、目の前で調理するお店の人と話をしたり、お店に来ているお客さんとも話をしたり、会話を楽しむこともできました。お店の人が教えてくれたのは、海外の方も来てくれるようになってうれしいけれど、特に車麩のような、海外であまり見かけることがない食材を使ったやさしい味付けのものは残していってしまうということです。『見たことがないだろうし、あまり手をつけたくないのかもしれません』って。そのおでん屋さんは、特に車麩がおすすめだったんですよね。わたしは普段からお味噌汁にお麩を入れるくらい好きなんです。だからこんなにおいしいのに、海外の人に分かってもらえないっていうのを聞いて、歯がゆいなと感じました」

「わたしは、東京に帰ってきてからも、スーパーでお味噌汁に入れるお麩を買いましたよ」

能登とわたし

そういえば、今回の旅行先はどうして金沢にされたのでしょうか。

「いつもだったら、車で行くことができる旅行先を選ぶんですよね。でも金沢は、わたしも母もいつかは行きたい場所のひとつでした。1月の震災もあったので、現地に行って実際に自分で見たり話を聞いたりしてみたいなって思ったんです」

実際に現地に行かれて、印象に残っていることはありますか。

「おでん屋さんでの話がとても印象に残っています。能登は、梅酒も有名みたいで、お店のメニューには梅酒やゆずのお酒のリストがたくさん並んでいました。でも、震災の影響でそのうちの幾つかの酒蔵が閉じてしまったこと。今お店にある分でもう最後、ということを聞きました。『水が変わってしまうと、もう同じのを作ることはできない』って。わたしは今後飲めなくなってしまうのが悲しいから、飲むのを控えた方がいいかなって話をしたら、お店の方が『そう思うなら、今飲んでおくべきだと思うよ』って言ってくださったんです」

「その酒蔵のお酒を飲ませてもらって、それがとてもおいしくて。これがもう飲めなくなるのはとても残念だな、悲しいな、と。こうした実態を知らなかったことを悔しく思いました。食を通してそのような気持ちになったのは、現地に行って、地元の人の話を直に聞かないときっと感じることができなかったと思います。自分には何もできないかもしれないけれど、これから何か手助けができるような人になりたいと思いました」

わたしの素

「普段から行きたいお店は、地図アプリにピンを立てているんです。兼六園の近くにピンを立ててあるパン屋さんがあって立ち寄りました。そこは、ご当地パンのお店。『頭脳パン』って知ってますか?他にもたくさんのパンやサンドイッチが、並んでて。わたしはお目当てだったご当地パンの頭脳パンと帰りの新幹線で食べる用のサンドイッチを母と一緒に迷いながら選び、買って帰りました」

「旅行の帰り、母に何が一番おいしかった?って聞いたんです。わたしとしては、母のリクエストに応えていろいろな場所に行って。母が好きな抹茶もおいしかったし、おでんとかの返事が来るかなと思ったら『うーん、そうね、印象に残ってるのは、帰りの新幹線で食べたパン屋さんで買ったパイナップルとレンコンのサンドイッチ』って。えっ?てなったのですが、それも母とのいい思い出ですよね」

思いがけない食事が記憶に残ることとなった、お母さまと在原さんの二人旅。「すっごく楽しかったです」という在原さんの言葉からも、とてもいい時間を過ごすことができたのだなと伝わってきました。おいしい記憶というのは、誰と何を話したということにもつながっているのかもしれません。

金沢の旅のお話には続きがありました。次回は、在原さんが金沢でどうしても行きたかったお店での出来事についてお届けします。

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