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珍しく、包丁を研いで感じたこと。

自然と、道具の扉

珍しく、包丁を研いで感じたこと。

この連載のタイトル通り、やっぱり道具が好きで、料理に関してもまず道具を揃えたくなります。料理道具の中でも特に好きなのは包丁で、その中でも一番大切なものといえば、誕生日プレゼントでもらった、有次の柳刃包丁と出刃包丁です。名前を刻印してもらって、一生モノとして、将来的には子供たちに受け継いでもらおうと思っていたのですが、自分は左利き、息子も娘も右利き……残念ながら受け継いでくれる人はいなさそうなので、とことん自分で使い倒そうと思っています。とはいえ、それほど頻繁には使わず、たまに魚を捌いたり、肉を切ったり、時には野菜や焼きたてパンをカットしたりして、使うたびにその切れ味を楽しんでいました。しかし、月に数回の使用でも、年数が経つと見た目も切れ味も今ひとつになり、当初の輝きを失ってしまいました。普段使っている文化包丁や果物ナイフは自分で研いだり、シャープナーで簡単にメンテナンスしたりしていましたが、せっかく良い包丁なのでプロに任せてみようと思い、包丁研ぎのサービスに出してみました。これがもう驚きでした。

帰ってきた包丁は、見違えるほどキレイになって、まるで別人、切れ味も新品同様。やっぱり、ちゃんとしたケアが必要だと実感しました。それと同時に、一緒に送った文化包丁も驚くほど見事な切れ味になって帰ってきて、思わず「今まで本当のポテンシャルを知らずに雑に扱ってごめんね。悪いのは俺でした」と謝りたくなるほどでした。包丁に限らず、道具や友人、家族なども、本当の力を知らないのに、知った気でいるのではないか!? そんな気持ちになるほどの切れ味になるので、皆さんにも包丁研ぎサービスをお勧めしたいです。

切れ味鋭い包丁を使うと、トマトや刺身、キャベツの千切りなどが驚くほどサクサク切れて、料理の腕前が上がったように錯覚するほどです。切った食材の断面もツルツルで、食感も美味しく感じます。楽しくて美味しいので、また切りたくなって、切りたくて切りたくて、食べたいより、切りたい気持ちが強くなったりして、ついつい料理を作りすぎてしまうこともあります。こうして考えると、戦国時代の日本刀が妖刀として血に飢えて人を斬るという怪談も、あながち嘘ではないかもしれないと思えてきます。包丁が本来の姿を取り戻し、「食材を切らせろ〜」と使い手の気持ちを支配するのかもしれません。逆に、道具は大切にメンテナンスすれば、ちゃんと本来の仕事をしてくれる気がします。どちらにしても、道具と上手に付き合うことが大切ですね。

包丁研ぎをコンスタントにプロに任せられれば良いのですが、包丁が手元から離れてしまうのが悩みです。そこで、自分で研ぐ技術を高めようと、砥石を新調しました。結局また道具が増えてしまいます(笑)。便利な電動シャープナーという選択肢もありましたが、今回はあえて最もフィジカルで最もプリミティブなやり方、つまり砥石を選びました。無心でシュッ、シュッと研ぐ行為は、精神を集中させる行為のようで、非常に気持ちが良いです。しかし、僕が研いだ包丁の切れ味はまだまだで、包丁のポテンシャルを最大限に引き出せる日は遠そうです。

そういえば、以前テレビでスポーツ選手が試合前にすることは何ですか?というインタビューで、「包丁を研ぐ」と答えていたのを思い出しました。試合前の集中力を高めるために、刃物を研ぐという行為が精神統一に役立つそうです。僕も、包丁研ぎを通して心の切れ味を鋭くし、この連載ももっと面白く、興味深く書けたら良いのですが......。まだまだ切れ味が甘いですね。これからも包丁とともに文章も磨いていきたいと思います。

わたしの素

 個人的に、包丁が最も輝く瞬間は魚を捌くときです。魚屋さんでわざわざ捌かれていない魚を買ってきて、三枚におろすことから始めることもあります。自分で魚を捌くと失敗もありますが、アラを使ったり、骨を揚げたりして料理の幅が広がる楽しさがあります。

これまでで包丁が最も活躍したのは、アジを釣って帰ってきたときです。大漁で何十匹も釣ったので、数時間ひたすらアジを捌いていました。アジのなめろう、刺身、フライ、南蛮漬けなど、アジ尽くしのメニューでした。正直、この量を捌くのはかなり大変でしたが、自分で捌くとやっぱり美味しいんです。骨までフライにして、余すところなくいただきました。中でも、最近食べて衝撃的に美味しかったのが、なめろうに青唐辛子を細かく切って混ぜたもの。ピリッと爽やかな味になり、ビールに最高に合います。辛いものが好きな方はぜひ試してみてください。

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