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わたしがやるべきこと

わたしがやるべきこと

──── 今回お届けするのは、Megumi Shinozakiとしてのアーティスト活動のお話。香港で開催された展示のタイトル「Meridiem」。時間を表すラテン語で、「中間」という意味を持つそのタイトルは、自分の立ち位置を表しているという。篠崎さんの活動は、生花やドライフラワー、紙で作られた花など、多岐にわたる。そして、生と死、刹那と永遠など、さまざまな意味を包含している。今回の展示期間中、篠崎さんが「やるべきこと」と決意した出来事について話を聞きました。


edenworksではなく、篠崎さん自身の名前でのアーティスト活動にはどのような想いがあるのか教えてもらいたいです。


「edenworksでの活動は、お花のロスを出さない仕組みをつくり、人々の日常にお花を取り入れてほしいという想いを持っています。アーティストとしての活動は、根底には同じ想いを持ちつつも、自分の発想やデザイン、そして日本人としてのクリエイションを伝えることが重要と考えています。これまでにお話ししたカタールやシンガポール、そして今回の香港のように、海外からも仕事の依頼をいただくようになって、日本人の手で作るクリエイションが海外でも受け入れられるんだという実感が湧くようになってきた。とてもうれしいし、自分のやってきたことを肯定できた」

今回の香港の展示は、篠崎さんにとってどのような機会でしたか。

「香港の展示は、4つの空間を全部つかって表現するという、ギャラリーを丸ごとディレクションするといったものでした。空間ごとにコンセプトを変え、観てくれる方々に、わたしのクリエイションの全容を伝えることを一番に考え、いろいろ工夫しました」

たとえばどのようなことなのかを具体的に教えてもらいたいです。

「まず、エントランスを入って正面の場所に、時間の経過を表現する"生花からドライフラワーへのインスタレーション"を設置した。これは日々変化するので、花の生と死を感じることで植物の本来の姿を知ることができる。次の空間は、ギャラリーで一番大きい部屋。目線の高さまで台座を作り、紙の花の大きめの作品"IKEBANA"を設置した。これは、日本のいけばなの構図に従い、真(しん)、副(そえ)、体(たい)の3つの役割で構成した作品。花器は天然石を使い、花瓶に花を活けることの逆転の発想を作風にしている。奥に進むと、唯一自然光が入る縦長の空間がある。そこにはモノトーンの紙の花を整列させた。今年の2月に中東のカタールで展示をしたように、花の色ではなく曲線美のフォルムを観てもらうことを目的としている。それとは対照的に最後の空間には、色とりどりの花々を床にランダムに並べ、世界さまざまな原産の花が一つの集合体になる"平和"をイメージ花畑を設置した。どの空間も、すごく気に入っています」

「香港という国で、わたしの作品が受け入れてもらえるのかは大きな挑戦でした。設営時のプレッシャーはいつもに増して大きかったけれど、それを乗り越えてオープニングの日を迎えられた朝は、言葉にできない感情が湧き上がってきた。何をするにも、勇気が必要。表現の幅が広がったと感じました」

わたしの素

香港での展示設営中、突然の出来事が篠崎さんの状況を一変させた。

「友人が亡くなったという日本からの報せがあって。その友人は、自分と同じく経営者で、わたしの中では同志でした。人って死ぬんだ。と、当たり前のことかもしれないけど、受け入れたくない気持ちで、これまで味わったことのない喪失感だった。
展示の途中で、緊急帰国させてもらって友人にお別れをしました。飛行機に乗って窓から空を見ると、天国ってどこなんだろうって探してしまう」

「その後すぐにまた香港に戻って、展示に集中した。何度も涙が込み上げてくるのでサングラスをして設置していたら、ギャラリーのスタッフからとても不思議がられた。でも、仕方なかった。
花は、誕生日やウェディングなどのお祝いの時や日常にも元気をもらえる存在だけど、亡くなった方への弔いの時でも寄り添える存在。彼の追悼式で花を任せてくれることになり、わたしは花の仕事をしていて本当に良かったと、心の底から思えました」

「今回の香港では、"わたしの素"になる写真を撮れなかった。ごめんなさい....でも、何か食べなきゃと思って食べたおかゆが心に染みたのは覚えてる」と紹介してくれたのは、前回香港に滞在したときのお粥の写真。「この温かいおかゆが、すごく優しかったんだ」と教えてくれた。

「今回の出来事で、人の悲しみや寂しさにも花が寄り添ってくれる、優しさの強さ、儚さの中の強さを花から感じた。これから、自分のやるべきことが見えてきたんだ」



篠崎さんが決意した「やるべきこと」を、今後も届けていけたらと思う。

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