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「Gulliver tree」

花と世界の扉

「Gulliver tree」

──── 今年はいろいろな経験をしてチャレンジをした一年だったと振り返る篠崎さん。edenworksとしてアーティストとして、国内外での活動についての思い出とともに、今年の締めくくりとなる最新のイベントに込めた想いについて語ってもらった。



昨年に続いて今年も、ホリデー期間中に那須塩原市の図書館「みるる」でのインスタレーションを開催することになったとうかがいました。

「昨年たくさんお世話になった那須塩原市役所のアート関連の部署の方にご依頼いただいて。せっかく今年もやらせてもらうなら、同じことではなく、昨年を超えることをしたいと思いました。作るものや考え出されるクリエイションを、毎回アップデートしていきたいし、新しい挑戦をしていきたいから。でも昨年よりもいい展示ってなんだろうって、考えるのがとても難しかった」

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「昨年は、小さかったり曲がっていたり市場に出回らないお花をバラ農家さんから分けてもらって、通常は光が当たらない花をインスタレーションした。会期中にドライフラワーに変化して、最終的には町中の人々に配り、小さな光が広がっていくコンセプトで、お花を楽しんでもらった」

昨年実施されたインスタレーションもとても喜ばれていましたよね。まったく異なるインスタレーションにしようと思ったのはなぜでしょうか。

「もちろん同じインスタレーションをアップデートするという方法もあるかもしれないけれど、同じ場所だったら、また違う景色を見たいなって。スタイルはいつだって変わっていくものだし、表現も縛られずに変化していきたい。天気とか季節とか、人間みたいに、いろんな形があっていいと思うんだ」

Gulliver treeのインスタレーション

今回のインスタレーション「GULLIVER TREE. PAPER EDEN」について教えてください。8メートルもあるモミの木は圧巻ですね。

「今年を振り返ってみたら、1番最初に頭に浮かんだのが、ロサンゼルスで見たスーパーブルームだった。生きる力が強くて、涙がでたんだよね。そして、9月に再びロサンゼルスを訪れて出会った、セコイヤの巨大な木。大きな自然を前した時、身を委ねた感覚になって、自分もその一部だと感じた」

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「心に残っている体験を通して、今年の締めくくりの作品を考えるとしたら『巨大な木を図書館にインスタレーションしたい』と一番に思いました。昨年とはまったく違う表現になることは間違いないし、そう決めてからは次から次へと伝えたいことが溢れてきた。まず、木は那須塩原の地域で探したい。そして、その木は展示後もちゃんと、植樹して育って行くコンセプトにしたいとか」

edenworksだけでなく、地元の人たちとも協力するというのは篠崎さんが大切にしていることですよね。

「そこはすごく大事にしている。市役所や図書館の人たちだけでなく、今回は那須を拠点にして活動している"casa tree(カーサツリー) "のプロジェクトにも協力してもらった。ちょうどシンボルツリーになる木を探していて、タイミングが合ったのもあって。今回のみるるでの展示が終わったら、"casa tree"の農園に植樹される木を選ぶことができたんだ」

インスタレーションした木は"Gulliver tree"と言うんですね。どうしてその名前をつけたのでしょうか。

「子どもの頃に読んだ記憶がある『ガリバー旅行記』。人間が小人の島に漂流した…っていう。Gulliverって言葉を調べると、"圧倒的に巨大な存在だけど、本質は変わらない"という比喩があるみたいで。約八メートルのクリスマススリーって、人間の背よりもはるかに高くて、てっぺんの方は全然見えない。でも今回のインスタレーションでは横に倒すことで、通常の視点が変わって、木の全体が見えるようになる。巨大な木だけど、木であることは変わらないんだよって。そういう意味を込めた。そしてもう一つのテーマが、"PAPER EDEN"。私が2017年に発表した、紙で花を表現することを今回の"Gulliver tree"にも用いた。来場者が紙でお花の飾りを一緒に手作りして、"Gulliver tree"に咲かせていく、ひとつの作品をみんなで作って日々増えていく、そういう参加型のインスタレーションにさせてもらった」

アーティストとして大事にしていること

今年はedenworks bedroomでワークショップ開催されましたね。篠崎さんと会話をしていると「子どもたち」はひとつのテーマにしているのかなと感じます。

「そうですね。わたしが子どもの頃、お母さんがお花を楽しそうに、幸せそうに飾っていて。お花ってこんなに人を幸せにするんだなっていう記憶がある。今、お花を仕事にして、表現活動もしていて、子どもの頃に受けた印象とか記憶が大人になってから大きな存在になるんだなということをすごく実感している」

「今回、みるるのインスタレーションを開催中に、那須塩原市の小学校、黒磯小学校4.5.6年生と東原小学校5.6年生の子どもたちに向けて、紙のお花の授業をさせてもらった。手で作るものには想いを込めることができる。"誰かを想って紙で花を作ろう"というテーマの元で、わたしにとってのお花の存在についても話をした。そして、めしべ、おしべ、花びら、がく、茎などのお花の構造とその役割を伝えて、平面の紙から立体の花を作ることをしたんだけど、みんな一生懸命取り組んでくれた。この授業を通して、花に興味を持つきっかけになって、生き物を大切にすることや思いやりの気持ちに繋がっていったらいいなと思ってる」

篠崎さんのクリエイションは「誰かのために」という想いが強いですね。

「edenworksとしてもアーティストの活動も根底は同じなんだよね。やっぱり自分が作りたいものを作るよりも、そのクリエイションが誰かに届いて、何かに繋がることを目標にしていたい。それが私にとっては重要なことだと思う」

わたしの素

今年一年の中で忘れられない食事について教えてください。

「毎回そうかもしれないけれど、やっぱりアウトプットする時の心の疲れを癒してくれるのは、あたたかい気持ちがこもったご飯。そういうご飯がわたしの"おいしさ"なんだなって」
 
「記憶に残っているのは、来年発表する紙の染色と制作をしに宮古島に訪れた時に、お母さんくらいのおばあちゃんが作ってくれた『ジューシー』ってご飯。お店の雰囲気も、あたたかくて優しい。今年は国内も海外もいろんな場所に行ったけれどやっぱ仕事で行くから気が張ってるし、疲れている。その疲れを癒してくれるのは、こんなご飯だった。おしゃれなご飯とかじゃないんだけど、あ、ほっとするみたいな感じかな」

 

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