コンテンツへスキップ
ほんとうのいろ

花と世界の扉

ほんとうのいろ

──── 今回は、新しい作品が生まれる様子や挑戦する様子について話をうかがいました。紙のお花の新しい色を求めて、すべて自然に還る作品を求めて、篠崎さんが奄美大島に1週間滞在した時のお話です。

奄美大島は、紙のお花の新しい挑戦だったとうかがいました。

「最近、紙のお花のインスタレーションや、国内や海外での展示があったり、作品の発表が続いていました。香港の展示を終えたあと、わたしの中では次のステップに進みたい、新しいことに挑戦したいという思いが沸々と湧き上がってきていた。その挑戦の一つに、和紙に染色するところからやってみたいという思いがありました。そして、知人の紹介で草木染めや泥染めが昔から盛んに行われていた、大島紬で知られる奄美大島を選びました」

「コロナ前に、一つのプロジェクトで兵庫県の淡路島で藍染めをした紙で作品を作ったことがあり、とても印象に残っています。その時は、3番藍といって普段は捨てられてしまう小さな葉っぱを摘んで染めたので、薄くて優しい色味に仕上がりました。お手伝いしてくれたのは、地元の障害者の就労を支援する施設の方たち。とてもいい経験でした」

「そして今回は、友人から奄美大島の『金井工芸』さんを紹介してもらって、新しい色を探しに行ってきました。金井さんは、作家やアーティストの相談も親身に聞いてくださるとても素敵な方。わたしの言葉も丁寧に聞いてくださり、『是非やりましょう』って快く受け入れてくださった。すごく嬉しかったのと、気持ちがあたたかくて。ずっと奄美大島に居たくなってしまいました。植物から生まれた染料を使った、『染め』というシリーズのはじまりです」

染め物の職人さんと、どのように話を進めていくのでしょうか。

「まずは、植物を取りに行くところからやらせてもらったのだけれど、ここにわたしは感動したの。ご近所の庭木や生垣の剪定をする代わりに、その枝葉をいただいて使うことをしていたから。染料の材料って、畑を管理して植物を生産したり、材料を仕入れて使うことが多いと思っていた。でも違った。雨の後や台風の後に山に入ると、たくさんの枝が風で折られているのを使ったり。最大限、自然に配慮している。今回はご近所のフクギという枝を剪定するのを手伝わせてもらいました。住んでいる方がお年寄りで、梯子に登るのは危ないからといって、染色家の金井さんは自ら庭師のように剪定をして、処分する枝をいただいて染料を作った。すごく自然な流れに思えて、心があたたかくなった」

染めてもらうのではなく、自分で染めるところまでをやったということでしょうか?

「色見本はあるけれど、いろんな色を染めて試すことからはじめようと言ってくださって。というのは、その時その季節や気温などによって出る色が違うみたいで、そんなところも生き物だなぁと思ったのだけれど、安定はしない。そして、色を濃くするには何度も何度も染めていく。薄くするには、染料に漬けて引き上げるスピードが重要。一筋縄では行かないところがとてもライブ感があった。そして工場の中は、すっごく暑い。汗がとまらなくて、途中から手拭いを頭にも巻いた。それくらい、過酷な環境で、自分との戦いだった」

「いただいた枝と葉を分けていく。枝は叩いて皮を使う。芯の部分は捨てるのではなく、乾燥させて薪に使うんだって。木の皮と葉っぱは一緒に煮出していく。煮て、葉っぱを足して、また煮る。それを続けていくと色が濃く変わっていくの。さいごに枝や葉っぱを取り除くと、すっごくきれいな、植物の"ほんとうのいろ"の染料になる」

「シダの葉を山に採取しに行ったり、茜の根っこのチップを煮出して染色したり、テーチ木(車輪梅)を煮詰めて発酵させた染料で体験をしたり、この土地ならではの染め方である泥染も体験した。染め方は2つの方法を試していて。紙を染めてから作品に仕上げていく方法と、白い和紙で作ったお花をディップするみたいにして染める方法。どちらも試しながら、納得いくものを創り出していきたいと思う」

「その場に行ってみないとわかんないし、自分でやってみたい。自分でやってみてはじめてわかることがあるし、その時自分とひたすら向き合うことでアイデアも生まれてくる。奄美大島では、自然と共に生きることを感じた。それを作品にして、伝えたい。届けたい」作品の創作への想いについて教えてくれた。

わたしの素

「お味噌汁定食を頼んだら、こんなにおっきなエビが入った味噌汁が出てくるんだよ。お味噌汁というよりもエビだよね」とみんなで笑いながら、美味しくいただきました。本当に自然からの恵みだよ」

「あとは、鶏飯も。とてもやさしい味で身体に染みた」

奄美大島での食事は、素材を使った食事がとても記憶に残っているようだ。

連載

花と世界の扉

記事一覧

おすすめ記事

わたしがやるべきこと

わたしがやるべきこと

篠崎恵美

暮らしの中に生きるお花たち

暮らしの中に生きるお花たち

篠崎恵美

「bedroom」という作品

「bedroom」という作品

篠崎恵美

作品じゃなく、風景をつくりたい

作品じゃなく、風景をつくりたい

篠崎恵美

私の家、私の家族

私の家、私の家族

木村綾子

辿り着いたブリオッシュ

辿り着いたブリオッシュ

川村明子