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作品じゃなく、風景をつくりたい

作品じゃなく、風景をつくりたい

────フラワーアーティスト篠崎恵美として、東南アジアで初めてのインスタレーション。そこには、これまで経験してきたこととは違う課題がありました。いつも前向きで明るい篠崎さんが、逃げ出したくなった、眠れなかったと打ち明けてくれた今回のプロジェクト。

どのような想いで乗り越えたのか、さいごには、どんなインスタレーションが完成したのか、プロジェクトのはじまりから完成するまでの話を聞きました。

プロジェクトのはじまり

どのようなきっかけから、今回シンガポールでインスタレーションをすることになったのか教えてください。

「昨年末に、お花や植物関連の日本の会社の社長さんとシンガポールを訪れました。その時に、現地の商業施設の関係者の方にフラワーアーティストとしての活動を紹介する機会があったので、わたしの作品に対する想いを話しました。『インスタレーションをつくることが完成ではなく、インスタレーションの最終日に観客に使用したお花をすべて配りたい。受け取ったお客様たちが、お花をご自身で愛でたり大切な人にギフトしたりと、お花の可能性を繋げていくところまでを作品の構成にしたいんです』って、身振り手振りで一生懸命に伝えました。あとはロサンゼルスでの個展や、カタールでの紙の花のインスタレーションなどの今までのアーカイブを説明もしました。後に聞いたのだけれど、それはどうやらコンペティションだったみたい」

そこからすぐに、今回インスタレーションを行うチャンギ空港に隣接している「ジュエル(複合施設)」からの依頼があったんですね。

「この場所で作品を作って展示しませんかって。まだデザインもしてなかったのに、コンセプトで採用されたと聞きました。うれしかった。前のカタールの時もそうだったけど、その場所にどのような作品を設置するのかを見ていない段階で、コンセプトに共感をしてもらえたというのは、すごく光栄なこと。いま世界中で、人々が届けたい想いは同じなのかなと感じて、胸が熱くなりました」

「そこから図面や、実際にインスタレーションをする場所の写真が送られてきました。驚いたのは、ギャラリーや何もない空間にインスタレーションをするのではなくて、植物園の一角に作ってほしいとのことでした。斬新すぎる。サイズも、奥行きは8メートルくらい、長さは30メートル以上。今までの作品の中では最大級の場所だったので、ワクワクとドキドキが入り混じりながら、提供された写真からデザインを開始しました」

「最終的にご来場いただくお客様にお花をギフティングするコンセプトが通ったので、その場合いつもは生花からドライフラワーになるように天井から吊るす形式にする。今回の場所は植物園なので、そもそも天井が高すぎて吊るすことが難しいことが分かって、改めてプランを考え直しました」

新しい作品の形への挑戦ということですよね。どのように作品の元が生まれたのかを知りたいです。

「この連載で前回話をさせてもらったのだけれど、ちょうど4月に見たカリフォルニアのスーパーブルームが印象的で。もう頭からあの時のインスピレーションが離れず、その体験を活かして手書きのラフ画を描き始めました。描いたものをCGに起こしてもらって、言葉と共にプレゼンしました。世の中にはないものを伝えるから、CGだけで提案するといっても難しくて。だから手書きで描いた絵も見てもらって。決して絵は上手と言えないけれど、想いを含めて伝える。イメージはバッチリ頭にあるから、イメージで伝わらないとこは言葉にして伝えてと、何度もミーティングを重ねていきました」

あきらめそうになったこと

今回のインスタレーションは、さまざまな課題があったと聞きました。ふだんあまり弱音を吐かないですよね、珍しいなと思いました。これまでもいろいろな困難なことはあったと思うのですが、どのようなことが大変だったのでしょうか。

「仕事の進め方が大きく違ったり、お互いにいいものにしようとする想いのぶつかり合いがあったりして、いつもよりも難しいところはありました。英語のメッセージのやり取りだけだと人柄が見えなくて、どのような感情でそう言ってるのだろう・・とか、くじけそうにもなった。アーティストとして表現したいところに、現地のいろいろな人の意見が入ってきたりすることもあった。現地の人たちの感性もあると思うけれど、デザインの重要な部分は譲れないところもあるから。自分本位にならないように気をつけながら伝えて、今回何度も泣きながら本当に頑張った」

「あとは、お花の状態がいつもと違うことにもとても苦労した。赤道に近いシンガポールの気候で咲くお花の色は、濃く強い南国の色。でも表現したいのは、もう少し優しい感じの色味。今回の作品は、花材はすべて日本から輸出をするところにも重要なコンセプトがあった。でも、到着した時点でお花はシンガポールの湿気によりドライ化が進んでしまい、少し縮んでしまっていて、見た瞬間にボリュームが足りなかったのはすぐわかった。でも、制作に取り掛かったばかりで騒ぐことは、スタッフのテンションを下げたり不安にさせたりしてしまうので、自分だけの胸にぐっと堪え、制作に励みました」

「お花が足りないかもしれないという不安で何日も寝付けなかったり、暑さで体調が悪くなってしまったり、前半戦は大変でした。制作4日目くらいで、足りない分を一万本ローカルの花市場に手配したり、自費で花を買い足したり、作品の完成度にはとことんこだわりました。何度も妥協しそうになったり、諦めそうになったりしたこともあったけれど、現地の人の協力やチームの助けもあって、やっと完成間近になった時に、深呼吸ができるほど安心できてぐっすり寝れたのを覚えてる。そして、やり遂げることができた。気候によるお花の状態の変化は、頭では分かっていても実際はものすごく違って、今回とても勉強になったし苦労した。学んだことが多かった」

挽回するチカラ

今回に限らず、課題にぶつかった時に意識していることはありますか。

「挽回するチカラがないといけないといつも思う。いつもうまくいくことばかりじゃない。でも、その問題に直面した時に、それを挽回するぐらいのことを思いつくことができるか、もしくはその手前で気づいて、事前に対処しておくことができるかがとても大切だと考えている。作品のイメージはばっちりあるのだから、それよりも悪いものになってしまうことは絶対にしないという意志を強く持つようにしています」

「あと、うまく物事が進んでいる時でも、気づくことができるかを意識している。何かこれ足りないかも、このままだとまずいかも、とか。今回の場合は、海外の環境でお花の状態がいつもと違うことに気づけたことがよかったのだけど、考えている本数では足りなかったり、状態を保つのが難しかったり、いろいろヒヤヒヤすることが多かった。
いつも何か問題が起こったときに怖気付かないようにしているけれど、今回現地での数日間はとってもしんどかった」

日本のチームはわずか5人だったとうかがいました。現地のチームとみんなで完成させることができたんですね。

「現地の人とのやり取りや、環境の変化でお花の色が変わっちゃったりお花が量が足りなかったり、今回はたくさん大変なことがあったけれど、すべてのことにこだわってよかったと思う。というのは、出来上がったインスタレーションが、作品ではなく、もう風景みたいだったんだよね。大きさも含めて。クライアントや関係者のみんながあんなに喜んでくれたのも、日本のお花と日本のクリエイションが国境を越えて、真剣に向き合った想いが届いたと思う。お花は世界を平和にすると確信した瞬間だった」

わたしの素

今回のプロジェクトの中で、篠崎さんの記憶に残っているおいしいはありますか。

「プロジェクトが終わって食べたシンガポールチキンライス!初めて食べたわけではないんだけど、今回食べたチキンライスはなんか違った。安心したのもあったけど、とても優しかった。すごくパワーをもらったなって記憶に残っています」

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