──── ミラノサローネでの展示会、パリやアムステルダムでの展示など、「PAPER EDEN」の作品を通じて、これまで海外でも活動を展開してきた篠崎さん。いま考えている新たな挑戦について、話を聞いた。
24年の変化
篠崎さんが最初に開いたフラワーショップ「edenworks bedroom(エデンワークス ベッドルーム)」の役割を、今年に入って変えたと伺いました。
「bedroomは、わたしにとってはとても重要な場所。2015年にオープンした当初は、わたしが店頭に立って、来てくださるお客さまと会話しながら花を販売するだけでなく、花が日常に存在することの豊かさや楽しみ方、お手入れの方法、花を長く保たせるやり方など、わたしの経験をお話ししながら想いを伝えたり、お客さまと出会う中でクリエイションを構想したりする特別な空間でした。ここ数年はわたし自身が立てず、スタッフにお願いすることがほとんどになっていたので、いつも心のどこかに申し訳ない気持ちがありました」。
「そこで今年は、本来のコンセプトを体現できるよう、ワークショップを中心にすることで、クリエイションを共有する場所として、花をつくる時間をもちたい考えてる」。
「"edenworksとして"や"篠崎恵美として"、ここ数年は世の中に向けた発信も多くなっていたけど、はじまりの部分、そして一番大切なところはちゃんとしっかりやりたいと思いました。それは原点に立ち戻るということではなくて、新たに道を切り拓いていきたいという言い方のほうが近いかもしれない」。
直近開催されているワークショップの内容は「季節の様々な生花を自由に生ける」というもの。
"自由"という言葉を使うところが、独学でこの道を切り拓いてきた彼女らしい。
ワークショップは「花の形式的な技術を教わるもの」ではなく、「花本来の楽しみ方を感じるワークショップ」として、参加者が好きな組み合わせを、正解不正解なく楽しむことができるようだ。
「花を通して感性を共有したい」と考えている彼女ならではだと思う。
香港やシンガポールでのあたらしい試み
いま、香港で新たな活動を考えていると聞いた。さらに、シンガポールでの活動も考えているとのこと。まず、香港ではどのような活動をしていきたいと考えているのか。
「香港にはアートフェアがあったり、友人がアートギャラリーを開いたり、アーティストとしてのマーケットがある中で、"edenworks"や"篠崎恵美"として、インスタレーションや作品を発表できたらと思っている」。
「香港の街は、古い趣のある建物の隣に、超高層ビルが建っているような、究極なインフラストラクチャー。古き良き風景と近代的で未来的な風景が溶け込んでいて、その相反するコントラストがおもしろいというか、魅力に感じた。植物も、建物に根を生やしている姿が多く見られ、力強い生命力を感じた」。
海外でチャレンジする意味
「海外で活動をしたいという気持ちがあるのは、ビジネスを拡大したいということではなく、日本人が持っている感性を海外に伝えられたらいいなと思っているから。わたしは、日本以外の国でもedenworksの花を届けていきたい」。
「ECで世界中のものがクリック一つで購入できるようなったからこそ、日本の手仕事の巧妙さ、繊細さ、自分が持っている感性をきちんと届けていきたいと思った。
インスタレーションした生花がドライフラワーになり、お客さまが持ち帰るまでを作品の一部にする考え方や、花をなるべく廃棄しない精神性を、世界のあらゆる土地の人々がどう捉え、どう感じるか知りたい」。
「先日の那須塩原市の図書館で開催したインスタレーションのように、子供からおじいちゃんおばあちゃん、老若男女みんなに来てもらい、人が花を体験してくれたり、花に集まってくれたりする姿を見ると、とても幸せを感じるんです」。
「わたしは、できるだけ挑戦していたい。世界が花で満たされ、言葉の壁を超えて花で感性を共有していくことが、わたしの目標であり、大きな夢でもあります」と、これからの挑戦についての想いを打ち明けてくれた。
わたしの素
香港でもシンガポールでも、篠崎さんの食事選びには共通点がある。
「現地の人が、朝ごはんってどういうもの食べてるのかなと調べるのが好きなんです。はじめて訪れた国では、地元の人の一日の流れを体験するようにしています。まずは、朝ごはんを食べてみる」と話し、その理由には「できるだけその土地に触れて、知りたいと思うから」という思いがあるようだ。
そうして選んだ、香港の朝食は「エビワンタン麺」。
「ものすごくおいしかった!」とうれしそうに笑った。
シンガポールの朝食は「カヤトースト」。
「フレンチトースト的なものに、ふつうだったら生卵はつけない。でも、地元の人がみんな、温泉卵みたいな生の状態にお醤油とコショウをふって、つけて食べるのを見て、はじめはかなり抵抗があったけど思い切って食べてみた。思った通りの味だったけど、普段しない組み合わせは、新鮮だし、冒険するのも楽しいんです」と楽しみ方を教えてくれた。
できるだけ現地のことを知って、理解して、楽しみたいという気持ちを自然に実践している。その気持ちが、彼女の人生の楽しみ方や自身のクリエイションにも活かされているのだろう。
彼女が感じた香港とシンガポールは、どうクリエイションされるのか。
アジアでの活動が、いまから待ち遠しい。