

──── 篠崎さんへのインタビューのために、edenworks BEDROOMを訪ねる。edenworksがはじまったこの場所は今、workshopが開催されたり、クリエイションのためのアトリエになったりしている。訪れた日は、次の作品のためなのかたくさんの花が置かれていた。
「あの頃はじめたことが、今こんなふうに花開くなんて」と篠崎さんから一言。それはedenworksという会社やブランドではなく、篠崎恵美としてのクリエイションのひとつ「紙の花のプロジェクト」についてのお話でした。
「10年前、BEDROOMをはじめた時、ありがたいことにすぐにいくつか取材をしていただきました。その際、ライターさんが私の肩書きを"フラワーアーティスト"と書いてくれていたのだけれど、少し違和感があったんです。それは、フローリストの仕事は、アーティストの活動とは違うかなぁという思いがある。アーティストとは、ゼロからイチを生み出す人。フローリストはお花をアレンジする人。お花という自然の造形物があって、そのコーディネートみたいなお仕事だと考えているからです。
自分が何を生み出したいのか、伝えたいのか、あの時はただ『やってみよう』っていう気持ちだけで、平面の紙で立体のお花を造形する活動をスタートしました。
今でさえ、さまざまなブランドから依頼をいただいたり、海外の展示に呼んでもらったり、中東のカタールにまで足を運ぶことになったけれど、紙のお花がどこまで需要があるのか、当時は考えてもみなかった」
「特にコロナ禍の時期は、生花の需要が一気に減って店も開けられない状況で。紙のお花の受注がedenworksを支えてくれた。自分の感覚と向き合って動いてきたことが、10年続けたことで自分を助けてくれて、今の自分をつくっているんだなって実感する。続けていて『本当によかった』と心から思える」
はじめて世の中に発表したは、ミラノだったと聞きました。
「そう、2017年のミラノサローネの期間中に。海外の人たちに日本の文化というか、日本人の手仕事の素晴らしさを見てもらいたくて、挑戦として展示したのがきっかけ。はじまりは2015年。2年間は技法や表現方法など自分らしさを追求していた。いろいろな種類の紙を使ったり、和紙だけで創ったりした時もあった。でも途中で、和紙だけにこだわることはやめた。この作品は、どこまで自分の感性を解き放つことができるかを大事にしたいと思ったから。和紙じゃなきゃだめとか、季節のお花じゃなきゃだめとか、現実にあるお花じゃなきゃだめとか。いろいろな固定観念やボーダーをなくして、行き着いたのが今のスタイルです」
今年に入って2月に展示をしたり、そして海外のファッションブランドの展示の一部を依頼されたり、まだまだ可能性がありそうですね。
「2月に代官山で開催した展示『Gathering ・集まりはやがて、分離する。それは個であるから、それぞれを生きる。』では、会場にできる限りたくさん在廊して、来場するお客様とお話しする機会を増やしました。それは、会場で感じたことを直接聞きたかったから。"実物を見たいから来ました"とか、"ずっと気になっていたけどようやく来れました"とか、"優しさの中の芯の強さを感じます"とか、うれしい言葉をたくさんいただいたり、展示の前でじっと立ち止まって、何か思い出してるみたいなお客様の姿を見かけたり。お客様がどう感じてくれてるかを知れることは、私にとってはすごく特別な瞬間。誰かの心にこの作品が届いているんだと実感しました」
「展示やインスタレーションには老若男女の幅広い世代が来てくれて、自分が言葉にしきれなかった部分をお客様が代わりに言葉にしてくれるような時もあって。それがまた次の創作への力になる。紙のお花の作品を生み出す価値は、もしかしたら生花よりも曖昧で、もっと人の心の奥に触れるものがあるのかもしれない。展示を通じて、こんなにも多様な人たちが集まってくれるというのは、私にとって新しい貴重な発見なんです」
あらためて、edenworks BEDROOMもアーティスト活動も10年ですね。
「10年って一区切りだと思う。もちろん、これまでのことに感謝しているし、誇りにも思ってる。でも、なんだろう。創作をはじめた時は、ただ『やりたい』という気持ちだけで、純粋だった。この次の10年を考えると、また新しいことを始めたくなる自分もいる。生み出すことって勇気もいるし、大変なことなのに、じっとしていられないというか。今までやってきたことを終わりにするつもりはないけど、次に向けてスタートしたいっていう気持ちが強くて、今のままでは時間が足りない。もっと自由に、自分の中にあるものと向き合いたい。そのために、新しいテーマや次のステージに進む、新しい挑戦が必要なんじゃないかなって思っています」
わたしの素
この10年を振り返って、創作活動とともにあったおいしさについて教えてもらいたいです。
「10年間、BEDROOMをはじめてから食べ続けている近くのパン屋さんのコロッケサンドと甘いデニッシュ。お店を入るとおばあちゃんがいてくれて、あたたかい気持ちになる。
天気の話や最近の出来事など、ちょっとした会話が嬉しくて、パンも大好きだけど、このお店に行くと安心してまたお仕事を頑張れる」
「私にとっては、10年通い詰めたパワーの源なんだ」