────「山岳収集家」という肩書を名乗る人は、もしかしたら世界に鈴木優香さんひとりかもしれない。その活動は文字通り「山を集める」こと。国内外の山を自分の足で歩き、そこで見た風景を写真に収める。写真そのものを作品として発表することもあれば、それをテキスタイルに印刷し、ハンカチに仕立てる。文章を添えて本として世に出すこともある。山をモチーフにした雑貨を自らデザインし、プロダクトとして販売するなど、その活動は多岐にわたる。
幼い頃から絵を描いたり、手芸をしたりするのが好きだった。東京藝術大学に進学し、プロダクトデザインを学ぶ道を選んだのは、「好きなことをやっていきたい」という素直な気持ちからだった。が、道は険しかった。
「課題の多くは自由演技で、抽象的なテーマを元に自分で問いを探し、それに対して表現をするというものでした。私は決まったタスクをこなすのは得意なのですが、『自由にやる』というのが苦手で……。どうしても優等生的な考えをしてしまったり、綺麗に収めようとしたりする癖があって、自分が本当に好きと思っているものを、誰の目も気にせずに表現するということに強い憧れを持っていました」
山の魅力を知ったのは、ある山小屋で行われた大学のゼミ合宿だった。
「山に登って、山で夜を過ごす。自然の中に身を置く時間が気持ちよくて、それからは高尾山など身近な山に登るようになりました」
登山をする中で、プロダクトデザインに対する考え方に変化が起きた。
「荷物を背負って歩く登山に使う道具は、どれも軽くてコンパクト。見た目のかっこよさだけではなくて、機能面まで緻密にデザインされていて、そこから生まれる美しさがある。長く、愛着を持って使ってもらえるデザインとは、こういうものかもしれないと感じました」
大学院を修了後は、アウトドアメーカーに就職し、デザイナーとして働いた。職場の先輩たちと一緒に本格的な登山にも挑戦し、初めて北アルプスに登った時には、あまりのつらさに驚きつつも、その美しさに感激もした。
「色々な山に登るうち、山の風景の違いはもちろん、同じ山でも季節や時間帯によって見えるものが変わるんだと知りました。目を凝らしてみると、あちこちに面白い造形や色があって、普段の生活では気づかなかったものが、自然と目に入ってくるようになりました。大学時代から父のフィルムカメラを持ち歩いて撮影をするのが好きだったのですが、山で撮影をするようになってからは、夢中になっていきました」
後編につづく
profile
鈴木優香 / すずき ゆか
山岳収集家 /1986年、千葉県生まれ。
東京藝術大学大学院修了後、アウトドアメーカーのデザイナーを経て独立。現在は世界中の山々を巡りながら、山と旅をテーマに写真やデザイン、文章などを通して幅広く表現活動を行う。
Credit; FRaU編集部
photo : Kasane Nogawa
text & edit : Yuriko Kobayashi