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菅原敏

オイシサノトビラ

菅原敏

────もしも詩が水だったら、どんな器に注ぐことができるか――。書くことを通じて、一貫してこのテーマと向き合うのが詩人の菅原敏さん。本のみならず、朗読、音楽、アート、建築、香り、街、さまざまな器のなかに詩の言葉を寄せる活動を続けている。学生時代は音楽に力を注いでいたという彼が、詩に関心を寄せるようになったきっかけも、音楽の作詞を通してだった。

 
「ジャズバンドを組んでいて、その活動のなかで作詞を始めたことが、詩との接点でした。続けるうち、ジャズとも縁が深いアメリカのビート世代の詩人に影響を受け、本格的に書くことを志すのですが、本より先に声を通した音の響きから詩と出会ったことが、紙の上での表現に固執しない自分の原点にあるような気がします」

第一詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』を現代美術家の伊藤存さんと作り上げたことを皮切りに、本を作る際にも他の表現者たちと関わり一捻り加えるのが菅原さん。その過程での気づきも、現在のスタイルに影響を及ぼした。

「特に現代美術家の方たちは、まず表現したいことが核にあって、その文脈に合わせて平面にしたり、立体にしたり、インスタレーションにしたりとアウトプットを変えます。彼らとともに本を作るなかで、表現したいポエジー=詩情が根幹にある点では自分も同じだなと。ゆえに、それをどう表現するか、つまり『どこに注ぐか』はあくまで自由だと気づかされました」

多岐にわたる活動のなかでは、食にまつわる詩を書く機会もたびたび訪れた。「初めて担当した連載も食がテーマだった」と菅原さん。日本酒、チョコレート、スープなど、さまざまな『おいしい』の背景を詩で表すなか、2024年には喫茶と旅を題材に、詩集『珈琲夜船』を上梓した。

 「幼い頃、祖母が『コーヒーを初めて飲んだ時のことを覚えている人は幸せになれるのよ』と話しながら、初めての一杯を淹れてくれたことが心に残っています。そのことを書いたエッセイを核に置きつつ、過去に発表した作品も含め、コーヒーの香りとともに小さな旅へ連れ出してくれるような詩を一冊にまとめました。コーヒーを片手に、夜の海に漕ぎ出せる小さな船のような本になれば、との思いを込めています」

後編につづく

profile
菅原敏 / すがわら びん
詩人
2011年に、アメリカの出版社PRE/POSTより詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』で逆輸入デビュー。以降、執筆活動を軸にラジオでの朗読や歌詞提供などで幅広く活動。近著に『季節を脱いで ふたりは潜る』など。最新詩集『珈琲夜船』(雷鳥社)が2024年11月7日に発売。
Credit:FRaU編集部
photo:Ayumi Yamamoto
text & edit:Emi Fukushima
イサベラ
神奈川県横浜市中区翁町1-5-14
☎080-9394-2960

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