SENSATION/感触
SENSATION/感触
食事を空想するプロジェクト

SENSATION/感触

小さい頃からマシュマロとホイップクリームの間のようなふわふわしているけど低反発が若干ある感触を想像することがある。「マシュマロ」と「ホイップクリーム」と書いてしまったのだけど、その感触には全く味がない。そして、それは形のない雲のようで、目を瞑るとずっと奥からゆっくりとわき出てくる。触ったことがないくせに手で触る感触があって、そっと強くぎゅーっと指先で押しつぶす感覚。それを想像するとき、美味しそうな感覚があって、私はそれを脳裏に思考しているのかそれとも心に感じているのか、分からなくなる。理性のような本能のような、その中間を行ったり来たりする。「感触」は、私のどこに落ち着いているのだろう。

過去に1度、作品合評会で私のガラス作品を「ガラスの素材が美味しそうに感じる」と評されたことがあった。ガラスそのものは食べられないのに「デリシャス」と言われて、なんだか気分が高揚した。

現実にはできないことを想像するのは不思議な感覚で楽しい。「デリシャス」な感触は想像でしかないけど、溶けたガラスを美味しそうだと思ったことはあった。非現実的な感覚だけど。ゆっくりと溶けたガラスの素材の感触を思い出す。

高温で溶けているガラスを触るのは難しいけど、濡らした新聞紙の束を使って、なんとなくの感触を得ることはできる。それは、日本語で「紙リン」と呼ばれているらしいのだけど、私が最も気にかけているガラス制作用の道具の一つだ。多くの場合、その濡らした新聞紙を使ってガラスの表面の温度を下げたり、形を作ったりする。ガラスの温度が600〜1200度ほどの間で作業をするので、どんなに濡らしても新聞紙の表面は焼けてしまう。焼けて灰になった状態にまた水滴を垂らし、何度もそれを繰り返して使うことでちょうど良い表面が出来上がり、良い状態を作ることができる。ちなみに水滴を垂らすタイミングを間違えるとその灰がガラスの表面にくっ付いて跡を残してしまうこともあるので、注意が必要だ。その新聞紙の道具は、作り手の癖が一番出ると思う。手にガラスの素材感や熱さを感じる必要がない人、感じたくない人は10枚ほどの新聞紙をざっくり厚めに4つ折りにしてたっぷり水を浸して使う。私の場合、ガラスの感触を手で感じられるように新聞紙をできるだけ薄くして使うのが好きだ。制作するガラスの分量/厚みによって紙の焼ける具合も違うので、ガラスの厚みの薄いもの作る場合3枚、厚みのある場合は4枚、とその時の作品によって新聞紙の量を調節する。日本の新聞紙の2回りほど小さいスウェーデンの新聞紙を横に三つ折りにして、それをコンパクトに長い方を短くするように三つ折りにし、片方の折口を片方の折口に間に入れ込ませる。元の大きさの9分の1になった新聞紙の束を水の中にしっかり浸して、対角線に軽く折って、繊維が崩れるまで雑巾のようにしっかり絞る。ぎゅっと固まったそれをまた9分の1の状態の新聞紙まで広げて戻し、伸ばす。そして、層になった新聞の間に空気が入らないように叩いて完成させる。

紙質は、ピンク色の紙をしたスウェーデンの「経済新聞」がいいという人もいるし、「スモーランド新聞」の素材がいいという人もいる。そう言うとなんとなくマニアックでかっこいい印象がある。色々試した結果、私の場合は、全然かっこよくもない「ストックホルムのどこででも手に入る無料のローカル新聞」との相性の良さを感じている。おそらくインクのノリがまばらで荒いのがいいのだと思う。ちなみに以前日本で、週刊誌や漫画の再生紙がよいという噂を聞いたことがあったけど、まだ試せていないので、いつか試したいと思っている。

何が言いたいかというと、溶けたガラスを直接触ることはできないので、「溶けたガラスの感触」は、つまりは想像でしかないということ。もちろん100%の想像よりは、より現実に近いのかもしれないけど、実際は濡れた新聞紙を通して触っているだけだ。その感触を頼りにガラスの熱さや柔らかさを知って、溶けたガラスを知った気でいるけど、思い出す「溶けたガラスの匂い」ですら新聞紙の焼けた匂いと新聞紙から出る煙たさがチラついている。それでもどこか美味しそうに感じる感覚は不思議だ。

素材に触れられることは豊かなことだと思う。その経験が残り、それと似たようなものを見た時に想像力をかき立てる。感触の良さや悪さは胸の奥にググーっと深く感じる気がする。時間と共に自分の経験が「記憶」になり、脳裏に残っている気もするけれど、想像する「感触」は手のひらにあるような気もするし、喉の奥にあるような気もする。

SENSATION/感触1 
SENSATION/感触2 前編 (順次公開)
SENSATION/感触3 後編 (順次公開)
SENSATION/感触4    (順次公開) 

Graphic Design:Tomoko Yamashita

 

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