

毎年大晦日は、近所に住んでいる友人たちがうちに遊びにやってきて一緒に紅白を観る、というのがここ何年かの恒例になっている。最初にはじめたのが2017年の年末だったので、もう今年で8回目。結婚しても子供が生まれても変わらず集ってもらえるのはとてもうれしいことだ。
今年は幸運なことに自分も家族も大きく体調を崩すことなく大晦日を迎えることができた。料理を作りながらおしゃべりをし、紅白の前半が終わってニュースに差し掛かった頃だった。あれ?なんだかお腹が痛いような…?下腹部に不穏な気配を感じ、そっと中座して寝室で横になっていたら、あまりに強くなる痛みに起き上がれなくなり、真冬なのに汗で髪がぐっしょり濡れ朦朧としはじめた。大晦日のこの時間に救急車を呼ぶわけには…としばらく悶絶していると、1時間ぐらいで急に痛みが引いていき、起き上がれるようになった。狐につままれたような気持ちで友人たちの元に戻り、飲んだり食べたりしながら、「さっきちょっとお腹痛かったんだよね、40歳過ぎたら大腸内視鏡検査受けないとね」などと呑気に話し、無事に年を越して友人たちも帰宅した1月1日深夜2時、再び痛みが襲ってきた。しかも前回の数倍の痛みだ。これは出産の時より痛いな、と妙に冷静に考えていた。複数回の嘔吐、極めつけに真っ赤な鮮血があった時、これはもうダメだ、病院に行こうと覚悟した。元旦に救急車を呼ぶわけには…とまた似たようなことを考えてしまったために、症状から推測される病名をひたすら検索して気を紛らわしながら家族が起きる朝7時までどうにか耐え、#7119の救急相談に電話をかけて医療機関を案内してもらい、「3軒断られたら救急車を呼んでください」と言われてかけた3軒目で無事診てもらえることになった。どうにかタクシーに乗ってついた病院で予想通り「虚血性大腸炎の可能性が高い」と言われ、血圧も下がっていたのですぐ入院となり、そこから急遽3泊4日の入院生活がはじまった。時節柄隔離対応になったため家族にも会えず、腸を休めるために完全な絶食をしながら、病院で一人正月を過ごした。冷蔵庫に残したまま出てきてしまったさまざまな食材や料理のことが目をつぶるたびによぎってしまい辛かったが、腸がうまく働いていないからか不思議と食欲はわかなかった。ここ数ヶ月のひどい生活により痛めつけられた腸が無言の抗議をしているように思えた。
退院後は腸の様子を探りながら、ここまでは食べられるな、と確認、調整を繰り返す日々がはじまった。腸内環境にまつわる記事を読みあさり、書籍を購入し、詳しそうな友人たちにおすすめ腸活を聞いた。腸に良いとされる食べ物やサプリを手当たり次第とった。不規則な生活、ワンオペ中にお世話になりっぱなしのジャンクフードやお菓子、子供の体調不良や夜泣き対応での睡眠不足、会食への復帰と共に増えた酒量。身体の不調の原因は思い当たることばかりだったが、それらを全部控えて規則正しい生活をするようにしていたら、腸は自分でも実感があるほどにみるみる良くなっていった。一方で、精神的にはストレスがたまっていくのを感じた。腸のためにやらねばならぬことが増え、今まで当たり前のようにしていたことがほぼダメになることの辛さ。他の人にとっての日常は私の日常ではないし、逆もまた然り。非常に健康的な生活が、結果ストレスをためる原因になってしまうという状態になっていた。
そこで思い出したのは、2022年にドラマ『エルピス』を制作した時に渡辺あやさんから言われたことだった。『「腸内細菌」についての本を読んだら、善玉菌と悪玉菌がバランスよく存在していることが、実は腸にとって理想的であることを知ったんですよ』というお話だ。善玉菌という言葉の強さから、それだけになる方が良いと思われがちだがそうではなく、善玉菌も悪玉菌も両方必要で、バランスの問題であるという。ちょうど『エルピス』の改稿中だったのでこのエピソードは第9話にも少し登場する。実はその当時はあまりピンときていなくて、「はぁそうなんですかあ」という生返事をしてしまった気がするが、時を経て今ようやく腑に落ちる瞬間がやってきた。個人的な理解で学術的な根拠はないが、時には不健康だとされるストレスフリーなちょっと悪いこともしながら、腸に良い生活をゆっくり目指していく、きっとそれが私の今のバランスなんだろうなあということだ。撮影中のお弁当生活を考えたら(この問題は現場全体で改善していくとしても)小麦粉や乳製品を完全に断つことはできないし、ワンオペの日、寝かしつけが終わってようやく一息ついて食べるポテトチップスや缶ビールも今の自分にはどうしたって必要だ。自分の機嫌と腸の様子を観察しながら、善玉菌と悪玉菌の良いバランスが取れるような年に今年はしていきたいなと思う。
わたしの素
そういえば、出産した時に育児に関する本をいくつかいただいて読んでいた中に「一生モノの腸内環境は親から子への最高のプレゼント」と書かれた本があったのを思い出した。娘が通っている保育園は食育にとても力を入れていて、毎日いろいろな食材を使っておいしい離乳食を出してくれているのでそれに甘えてしまい、家での朝食と夕食は娘が好きな食べ物のルーティンになりがちだったけれど、できるだけ多くの菌を取り込むためにも食材の数をもっと増やしていくようにしようと決意した(無理しすぎないように)。少しずつ親と同じものが食べられるようになってきた娘とともに、善玉菌と悪玉菌のよいバランスが取れるような年に今年はしていきたい。