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精神科医 星野概念

オイシサノトビラ

精神科医 星野概念

────前編で、患者の様々な心の不調と向き合うのに対話と養生を大切にしていると語った星野概念さん。活動が自然と病院の外に向くのも、星野さんが対話に重きを置いている証だろう。診察室以外のスペースやオンライン上に対話の場を設けたり、対話とサウナを組み合わせたイベントを開催したり、メンタルヘルスを追求する試みは、様々なシーンへと広がりつつある。そしてそのヒントは、愛して止まない酒にもあった。

「最初はただ熱燗が好きで、自分の体に合う気がして飲んでいただけなんですけど、そのうち造られ方を深掘りするようになったら、さらに面白くなって。菌がバトンタッチしながら醸していく日本酒の発酵の過程も、本で初めて知ったんですけど、すごく素敵なことのように思えたんですよね。その頃に出会ったのが、現在、茨城の〈月の井酒造店〉の杜氏を務めている石川達也さんの酒でした」

日本酒や発酵はもとより、その興味は石川さんの酒造りの精神にもシフトしていった。

「石川さんのインタビュー記事などに、酒造りの主役は菌で、菌があるがままに活動できる環境づくりをするのが蔵人であり、杜氏なのだとあった。そのことが、僕が考えていたメンタルヘルスの感覚と勝手に重なったんですよね。僕は辛さを感じる人のお手伝いはできるけれど、良くなっていったり、何かを決めたり、最終的なブレイクスルーって本人にしかできない。でも、そのプロセスに居続けることはできるし、誰もいないよりも力になるんじゃないか。そういう自分のスタンスが、石川さんの酒造りの話のなかで語られているように思えたんです」

そして尊敬する石川さんへ猛アプローチするうち、幸運にもメールをし合ったり、蔵を見学させてもらったりする間柄になった。実際に、しんとした液体が発酵して沸き出すのを見守る姿に触れて、得たことは大きかったという。

「それは自分が真理だと思っていた、待つということをエンパワーメントしてくれた体験でした。石川さんから得た酒にまつわる体験や学びに、自分はとてもインスパイアされていて、それなしでは今の自分はなかったと感じています」

星野さんにとって忘れられない食というのも、蔵見学の後、石川さんを始め、日本酒を醸す蔵人たちと一緒に囲む夕食の時間にある。

「一日中、蔵で酒造りをじっくり見学させてもらってから、夜に時々ごはんをご一緒させていただくんです。彼らと普段の食卓をともにするのは、おそれ多くも嬉しくて。だって、僕にとって尊い仕事をしてくれている思い入れのある人たちなんですよ。彼らと食卓を囲んで、その時々で酒造りで疑問に思うことを聞いたり、ただ笑い合ったり、晩酌に混ぜてもらえることに、すごく感動するんですよね。それは僕にとって、何にも代えがたい貴重な体験なんです」

その食卓には必ず、〈月の井〉の酒がある。

「晩酌の時はいつも、頭と呼ばれる現場キャプテンが燗つけ係なんですけど、ふたを空けたポットに徳利を入れて、手で持てないくらい熱々の温度で飲ませてくれるんです。石川さんの酒って、すごくしっかりした造りなので、温度を上げても、その分、味にふくらみが出るんですよね。日々の気取らない飲み方を共有しながら飲むのも嬉しいし、その燗酒の旨さ、なんだこれは!という感覚は、その場の雰囲気も相まって、時が経ってなお忘れることができません」

わたしの素

昔から、豆やおかきがとにかく好きなんですよ。〈風雅〉の「風雅巻き」は最初、たまたまどこかで出してもらったのかな。おいしいと思って調べたら、中身の豆と味の組み合わせがいろいろあって、そんなの楽しいに決まってるし、海苔もパリパリでおいしいし。それに、手でひとつひとつ豆を巻いていると知って、すごい!と思って、取り

寄せて常備するようになりました。中身は豆と海苔なので、小腹が空いた夜にも2~3本食べて重くなく、ナッツだけを単体で食べるより味わい深い。ほかの何かでは替えがきかないんですね。好きなのは定番の醤油大豆ですが、醤油カシューナッツも旨い。後者は、ボリュームも特別感もあるので一日1本までと決めています。(本人購入品)

profile

星野 概念 / ほしの がいねん
精神科医など / 1978年生まれ。
病院勤務や訪問診療の傍ら、執筆や音楽活動も行う。対話と養生を軸に、漢方や発酵などにもヒントを得て、様々な心の不調と向き合っている。著書に『こころをそのまま感じられたら』『ないようである、かもしれない』、いとうせいこうとの共著『ラブという薬』など。
Credit : FRaU編集部
photo:Masanori Kaneshita
text & edit:Asuka Ochi

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