うつくしい朝とおいしいパリ
松浦弥太郎 | 今日もていねいに。

うつくしい朝とおいしいパリ

パリに着いた次の日、日が昇る前の早朝、友人とランニングに出かけた。

暗い街を走って、着いた先がトロカデロ広場だった。観光名所として知られるスポットだけど、とても静かだった。夜と朝のはざまに広がる青い空を背景に立つエッフェル塔を眺めた。

日が昇るにつれて空の色が、青からオレンジへと変わり、高台から見える街の建物が白く輝いてくる。ぼくらはその光景に立ちすくんだ。そのあまりのうつくしさに言葉を失っていた。

それからというもの、パリに滞在するたびに、週に1、2度、早朝のトロカデロ広場に、ランニングがてら訪れるのが習慣になった。ちょっとした朝の楽しみとして。

ある朝、いつものようにトロカデロ広場から眺める日の出を楽しんだあと、すぐ周辺にあるカフェで軽い朝食をとろうと思った。まだ早い時間なのでどこも開店前だったが、一軒だけ開いているカフェがあったので入った。カフェオレとクロワッサンを注文した。

特に大きな期待もせず注文したカフェオレとクロワッサンだったが、なんと、そのおいしさにびっくりした。カフェオレとクロワッサンなんて、パリでは、どこでもまあ、そこそこおいしいのだが、この店のおいしさは格別だった。

クロワッサンの芳醇なバターの香りと、なんともいえない食感とその味わい。やさしい苦味と香り良いコーヒー。一口、もう一口と味わって、思わず腕を組んで唸ってしまうおいしさだった。

こんなところで、なんて言うと失礼なのだが、トロカデロ広場エリアと言えば、有名な観光名所のひとつ。だから驚いてしまった。開店直後だから、客は居ず、店はガラガラで、ぽつりぽつりとやってくるのは、近所の住人ばかりで、卵を使った朝食セットを食べている。それもまたなんともおいしそうだった。

カフェの名前は「CARETTE」。聞くと、老舗のサロン・ド・テで、ケーキやマカロンが人気の店だという。昔ながらのクラシックなインテリアがすてきな店だ。

あまりのおいしさに感動し、帰り際に店内のガラスケースの中にあった、ショソン・オ・ポムとクロワッサン、ピスタチオのクッキーをテイクアウトして帰った。ここのショソン・オ・ポムは、長細くて珍しいかたちだった。他にもジャンボンフロマージュといったサンドイッチも実においしそうで目移りして困った。いい店を見つけたと喜んだ。

どれもがおいしくてまいった。なんと言えばよいか、とにかく、使っているバターにしても小麦粉にしても、砂糖にしても、どれもが上質というか最高級なものを使っているおいしさである。そして、昔ながらの伝統的な技術を守り続けている、素朴だけどリッチな味と言おうか。まだまだ知らない店はたくさんあるだろうけれど、パリでどこのカフェがおいしいかと聞かれたら、トロカデロ広場の「CARETTE」と答えたくなった。

店は7時30分にオープンする。その前にトロカデロ広場でエッフェル塔の景色を楽しみ、「CARETTE」でカフェオレとクロワッサンをのんびりといただき、何かテイクアウトして帰る。

という経緯があり、ある日の午後、用事があってトロカデロ広場の近くに行った。そうだ「CARETTE」で一息つこうと思って訪れた。すると、なんと店はぎゅうぎゅうの満席で、外には20人くらいの人が行列を作って待っている。びっくりした。こんな人気店だと知らなかったからだ。

みんな見栄えするパフェやケーキを楽しんでいる。そうか、ここはいわゆるパリのカフェというよりも、そういった伝統的なスイーツが世界的に人気なのだ。客のほとんどが女性というのもその理由だろう。

ギャルソンに何分くらい待つかと聞くと、30分くらいと言うので諦めた。しかし、あのおいしいクロワッサンやクッキーを、ぼくは食べたい。そう思って、客であふれた店に入ってテイクアウトのカウンターに行ってみると、そこで待つ人はなく、いつものように、あれとこれとそれと難なく買って帰ることができた。よかったよかった。とにかく何を買っても、とびきりおいしいのが「CARETTE」なのだ。

ぼくにとって「CARETTE」は、早起きしてトロカデロ広場からの日の出の景色を楽しんだ後、7時30分に行くお気に入りのカフェだ。静かな店内でのんびりとカフェオレを味わい、焼き立てのクロワッサンをかじる。おやつを買って帰る。そういう使い方がいい。

ぼくのささやかなパリの楽しみのひとつになっている。

わたしの素

非常食というと大げさだけど、そんな気分で「ヤタロウズグラノーラ」は、どこに行くにも持っていく。もちろんパリにも。
旅先の土地のおいしいものを食べながらも、なんとなくいつものあれを食べたいという気持ちになる時がある。そんな時にあると嬉しいのが、自分で作った「ヤタロウズグラノーラ」なのだ。おいしいのは当然だけど、食べて安心するおいしさってあると思う。その中のひとつです。外国のヨーグルトやミルクで食べると、また違ったおいしさがあって、それも楽しい。ぼくにとっての我が家の味です。

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