SENSATION/感触 後編
山野
その話を聞いて、自分の誕生日のことを思い出しました。6月7日が誕生日で。みんなには「胸毛の日」って覚えてもらっているんだけど。その前日 6月6日がスウェーデンのナショナルホリデーで祝日なので、私の誕生日会も兼ねて毎年恒例のバーベキューの日にしていて、「来たい人はどうぞ」みたいな感じで集まるんです。
特別な料理を用意するわけじゃなくて、夏休み前の「食材の掃除の日」のような日で。その時に冷蔵庫と冷凍庫にあるものを中心につくるので、毎年全然違います。去年のあれがおいしかったね、今年の組み合わせはよかったね、なんて話したりするんですけど、でも、同じことをもう一度やろうとしても絶対にできないんです。その時に来る人も違うし、天気も違うし、食材も違う。それって、Leiさんが話していた“一度しかない風景”に近い気がしたんです。
毎年必ず友人の一人がレモンパイを持ってきてくれるんですけど、レシピにある「2個のレモン」の味の違いで、パイの酸っぱさや甘さが毎年違うんです。今年のレモンパイは本当に最高でした!
そのパイをベースに私が組み合わせるケーキを毎年変えて作ったりしていて。レモンパイが来ることがわかっているから、去年はコーヒーゼリーケーキを、今年は抹茶ティラミスにしよう、と考えるんです。その存在があることで、その年だけの組み合わせが生まれるんです。Leiさんの話を聞いていて、その感覚にすごく共感していました。
Lei
そうそう!たぶん、そういうことなんだと思います。
人生そのものも、少し似ているのかもしれません。誰かと出会って、その人の経験や考え方に触れて、自分の中に新しい発想が生まれる。そしてまた別の誰かにつながっていく。
そうやって人の経験が重なり合いながら、少しずつ前に進んでいく。私がつくりたい風景も、そういうものに近いのかもしれません。
山野
そういえば、先日、母の日だったんですけど、息子が「今週末は母の日だね」って言っていたし、私自身もかなり意識していて、「何をしてくれるんだろう」って期待していたんです。
そしたら当日の朝、息子がパーカーを逆に着て丸まって、「チキン!」ってやったのね。それがプレゼントだって言うんです。もちろん面白かったんだけど、「きっとまだ何かあるんだろうな」って期待していたら、そのまま夜になって、結局それで母の日が終わったんです(笑)。
本当は、そのチキンだけでも十分面白かったし、喜べたはずなんです。でも期待値が上がりすぎていたせいで、なんだか母の日を満喫できなかったんですよね。
その一方で、母の日でも誕生日でもない日に、急に「お母さんのために作ったよ」ってクッションをくれたり、「お母さんのために、ヨーロッパで二番目に大きい湖の名前を覚えてきたよ」ってプレゼントみたいに教えてくれたりすると、うれしかったりする。なんで二番?とは思ったんですけど(笑)
結局、期待しているかどうかで受け取り方ってずいぶん変わるんだなと思って。誕生日とか母の日って、朝からそわそわしちゃうんですよね。
Lei
それって、意外性の話なのかもしれないですね。サプライズというか、予想していなかったことに出会う面白さというか。
山野
そうかもしれない。でも、それって「おいしさ」にも通じる気がするんです。おいしさって、サプライズの要素があると思いませんか?
Lei
たしかに。これとこれの組み合わせが面白いなとか、この組み合わせって意外だけどいいかもとかありますよね。そう考えると、私がパフォーマンスをつくる時にも、かなり意識していることかもしれない。何かを見せるというより、種を蒔いている感覚に近いのかな。
山野
Leiさんが「風景をつくっている」って言っていたのですが、その風景が、自分の中にある心象風景なのか、それとも実際に経験した風景なのかで、結構違う気がするんです。たとえば「北欧って、こういう暮らしなんでしょう」ってイメージを持っている人がたくさんいると思うんだけど、実際に住んでみると、「いや、そんなことないですよ」って思うことも結構ある。
Lei
ふふふ。
山野
パリもそうですよね。
「パリってこういう場所だよね」って思っているけれど、実際に暮らしている人が日常を見せたら、「そういうことじゃないんだよ」ってなると思う。だから、Leiさんがつくる風景って、どの部分を見せようとしているんだろう、というのが気になっていて。
それは実際の経験に基づく風景なのか、それとも人が思い描くイメージの風景なのか。そこを聞いてみたいなと思ったんです。
Lei
どちらかというと、その間にあるものかもしれないですね。
実際に見たものや経験したことが土台にはあるんだけれど、それをそのまま再現したいわけではないんです。むしろ、それを見た人が自分の経験を重ねられる余白を残したい。
だから、「これはパリです」とか「これは北欧です」と決めるというより、その人の中にある風景が立ち上がるきっかけを作ることができたらいいですね。
山野
なるほど。はじめに自分のイメージみたいなものがあって、それが現実に触れることで少し変わって、また違う想像が膨らんでいく。その循環がおもしろいんですね。
Lei
そうですね(笑)。たとえば最近フランスでもお弁当をよく見かけます。美味しそうだけれど、でもなぜか日本にあるものとは雰囲気が異なる。フランスの現実が日本のお弁当文化に滑り込んでいるからでしょうか。
お弁当を作るとか、地産の旬の素材を使うとか、最近流行っている(?)ことでも日本ではとても普通のことだったりする。オイシサレベルが高めというか。日本のそういうところが好きですね。
山野
日本の気候は季節を感じやすいっていうのもあると思います。スウェーデンに住んでるとほとんど冬だから野菜やフルーツも冷凍で結構済ますことが多いんです。外で育てようと思っても、トマトはなかなか赤くならない。なので、緑のトマトでジャムを作ったりしています。寒すぎて野菜が育ちにくいと、輸入に頼る部分が多くなるから、どの野菜が旬なのかわかんなくなるんです。ほうれん草や白菜がいつの季節かわかってない(笑)
Lei
なるほど。フランスとスウェーデンは思った以上に違うみたいです。
なんでもいつでも手に入るのも、困りものですね。手に入らないものがあるときは、あるもので工夫すると予期せぬ新しさが生まれることもあると思うし。先程のサプライズや意外性のオイシサにも繋がりそうです。
そうそうさっきトマトの話の時に、スウェーデンではトマトの絵を描くときはを赤だけじゃなくて緑でも描くのかな??と想像したりしました。
フランスの子供たちって太陽の絵は黄色い丸で描くんですって。ヨーロッパではそうなのかな?日本では赤い丸が基本。実際は赤くも黄色くも見えないと思うけれど(笑)。
山野
それぞれが思っている風景が違うから、おもしろいし、それぞれぜんぶ間違ってない。それぞれでいいし、そこに人の豊かさがあって、自分らしくいられることにつながっていくんじゃないかと思っています。
Lei
すっかり脱線だらけのおしゃべりになってしまいました!あまりテーマの「感触」に沿っていないかも・・。
山野
Leiさんの感触は、つかめそうでつかめない感じが素敵です。話せてよかったです。
Lei
ご招待ありがとうございました。
山野
こちらこそ、ありがとうございました。またどこかで!
SENSATION/感触 1
SENSATION/感触 2 前編
SENSATION/感触 2 後編
SENSATION/感触 3 後日公開
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