SENSATION/感触 前編
SENSATION/感触 前編
食事を空想するプロジェクト

SENSATION/感触 前編

──── 今回のテーマは「感触」について。アーティストとして活動されている斎藤麗さんをお迎えして、対談がはじまりました。

Lei SAÏTO 斎藤 麗(アーティスト)
2003年よりパリ在住。美味なるモノゴトをしばしば創作の出発点に、その場所の物語に着想を得た美しくも儚い、食べられる風景としてのインスタレーション作品を生み出している。

山野
今回のテーマは「感触」です。
Leiさんとはじめてお会いしたのは10年くらい前でした。フランスとスウェーデンを拠点にしている女性アーティストやキュレターの4人でレストランに集まってご飯を食べましたよね。その時は、たくさん話をしたわけではなかったんですけど、アートやパフォーマンスをしていると聞いて、「クリエイティブでおもしろいことをしている人だな」という印象が残っていました。その後もインスタグラムなどを通して活動はなんとなく拝見していたんですが、実際にはどんなことをしているのか、きちんとは把握できてなかったんです。
今回「感触」というテーマを考えた時に、Leiさんの活動とどこか重なる気がして。しかも、このプロジェクトは「オイシサ」がテーマなんですが、私はLeiさんの活動にも、おいしさにつながる何かを感じていました。
まずは、Leiさんがどんなことをされているのか、お話を聞いてみたいなと思いました。

Lei
私はパリを拠点にアーティストとして活動しています。どちらかというと、ビジュアルアーティストとか美術家と言った方がわかりやすいかもしれません。美術館やアートセンターで作品を展示したり、パフォーマンスをしたりします。作品は、その時々で色々な素材を使うのですが、その中でも食べ物を使って美味しい風景をつくるのが「キュイジーヌ エグジスタンシェル」です。
食材を使って風景をつくるパフォーマンスのシリーズで、出来上がった風景をみんなで味わってその風味と空間を共有し、全て消えてしまう、というプロジェクトです。そう言えばフランスでは(世界でも?)、食べ物を新しい方法で見せる、キュリナリー・デザインが一つの流れになっていますね。
多くのシェフやお料理好きの人々が、素敵な作品やお料理を作っています。わたしの活動の特徴は、食べ物を素材にしていても、現代美術作家としてアートの世界で発表していることだと思います。

山野
「キュリナリーデザイン」って、どういうものなんですか。食べ物をデザインする、みたいなこと?

Lei
デザインの観点から解釈するガストロノミーと言ったら良いのかな。食べ物を素材に、多様な技術で壮大な、あるいは精緻な作品を作る分野、のような感じでしょうか。例えば、チョコレートで作られた大きな動物だったり、精巧に再現されたお菓子の家だったり。
もちろん技術としては本当にすごいんです。でも、見た目が重視されることが多くて、実際には食べられなかったり、食べてもあまり美味しくなかったりすることもある。
私にとっては、みんなで美味しく食べられることが最重要事項の一つです。アーティストなので分野が異なるということもあり、キュリナリー・デザインとは一味違ったアプローチです。
それから、インスタレーションには何かしらの物語があることも意識しています。その土地の素材を使ったり、古いレシピから着想を得たり。美しさ、美味しさ、そして物語性。この三つを軸に考えています。このプロジェクトについてまとめた「キュイジーヌ エグジスタンシェル」という本も出版しました。

山野
Leiさんのインスタグラムを見ていると「その場に行ってみたい」と思わされる感覚があるんです。賞味期限があるというか、限定感があるというか。そこに行かなければ見られないし、体験できないという感じ。
今の時代に、その感覚ってすごく大事なことなんじゃないかなと思いました。

Lei
一期一会、と言ったらイメージしやすいかもしれません。たとえば、誕生日会の思い出やその時の会話って、どんなメニュウだったとか、誰がいて一緒に食べたかとかいうところから蘇ってくるのかな、と。
どの誕生日会も世界に一度しかない。というのも、次の年になればお天気も、献立も、集まるメンバーも変わる。違う国に引っ越しているかもしれない。そもそも同じ人が集まってもみんな一歳分違う人になっている。だからその、一度きりの時間と空間を大切にしたいと思っていて。
それを特別なイベントだけじゃなくて、ふだんの食事でもそういう時間を創り出していきたい。みんなで同じ空間と味を共有して、食べ終われば全部消えてしまう。でも、その体験だけは残る。そういう時間をつくりたいんです。

山野
今のお話を聞いていて、あらためて思ったんですが、Leiさんの風景には素材感があるなって。それって今回のテーマである「感触」にもつながると思うんです。Leiさんの作品、インスタレーションと言っていいのかわからないのですが、「風景」には、人の気配というか、関係性のような目に見えないものがある気がしています。

Lei
そうですね、色々な素材感が混じり合っているのかな。
食べられる風景をつくるパフォーマンスでは、食べ心地のテクスチャーが変化に富むようにも工夫しています。さくさくしたり、ふわっとしたり、ガリガリしたり、とろりとしたり。食べる場所と組み合わせによって、違う風味になりそうなので、どこを食べても飽きないように。
そこに気配や関係性も混じっていたら嬉しいですね。

山野
たとえば、クリームを触る感覚とクラッカーを触る感覚って全然違いますよね。
でも、その感触ってどこに残っているんだろうと思う。手に残っているのか、頭の中に残っているのか。それとも、食べた時の感覚として喉に残っているのか。Leiさんのインスタレーションを見ていると、自分の中にあるそういう感触の記憶を引っ張り出している感じがする。「あれはふわふわしていそうだな」とか、「これはサクサクかな」とか。おいしそうだな、楽しそうだなと思いながら見ているんですけど、それって結局、自分の中にそういう経験があるからなんですよね。もし、ふわふわという感触をまったく知らない人がいたら、その想像はできないかもしれない。
それに、さっき話していた“一度きり”ということともつながる気がしていて。
作品は消えてなくなる。でも、その体験は残る。感触として、自分の中に蓄積されていく。
そんなふうに感じました。

Lei
それぞれの人の中にある「ふわふわ」のイメージって違うと思うんです。だからこそ、面白いと感じることも、人それぞれでいいと思っていて。
インスタレーションが完成して、美味しい風景をいざ味見しよう、となった時に、みんなの反応が人それぞれなのがいつも興味深い。これは何?と聞いてからしか食べない人と、まずは食べてみてからこれはなんだろう?という人がいる。「これはキノコらしいよ」とか、「発酵しているのかも」とか。でもそれが正解かどうかはあまり重要じゃなくて、その人なりの経験をもとに話していることが面白いな、と。もちろん美味しく食べてもらえることも大事だけれど、来てくれた人たちが参加して、食べて、感じたことや風味を共有したり、あるいはしなかったり。その一連の流れ全てがパフォーマンスなのかな、と思っています。

山野
なるほど。

Lei
誰もまだ見たことがないけれど、でもどこかで見た何かを思い起こさせる風景のようなもの。そんなものをつくることができたらいいな、と思っています。見た瞬間に、キラっと、あるいはワクワク、と何かが立ち上がるような。そういうものをつくれたらいいですね。

後編につづく

SENSATION/感触 1
SENSATION/感触 2 前編
SENSATION/感触 2 後編
SENSATION/感触 3 後日公開

Graphic Design:Tomoko Yamashita

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