

──── ある日、松浦弥太郎さんと打ち合わせをしていて、日々の暮らしを楽しんだり自分らしい生き方が見つかったりするようなノートをつくろうというアイデアが生まれました。今回は、そのきっかけとなった松浦さんがこれまでに使ってきた小さなノート、そして書くことの意味についてのお話です。
オイシサノトビラ
毎日することが多くて、食事を楽しむことができない人もたくさんいると思います。松浦さんはどのようにしてやることを整理したりスケジュールを立てたりしていますか。
松浦弥太郎
仕事をしたり学んだりするなかで、毎日たくさんのことを考えたり、感じたりしています。でも、そういったことのすべてを覚えているわけではなく、大切なことを忘れてしまったり、本当は考えるべきことを後回しにしてしまったりすることもあります。意識して気をつけようと思っても、なかなか難しいものです。ぼく自身、日々の暮らしで "頭を使うこと”と“心を使うこと”が入り混じり、混乱することがよくあります。
ぼくが20年ほど愛用しているのが、メモ代わりの情報カード。胸ポケットに収まる小さな硬い紙で、持ち歩きにも便利だし保管もできる。ただ、それ以上に使いやすいものがないかと探していたときに出合ったのが、手のひらサイズのノートでした。クリーム色の無地のノートで、左に日付とやることを書き、上から順に進めるチェックリストとして使っています。
オイシサノトビラ
チェックリストやスケジュール以外に、どんなことを書いているのですか?
松浦弥太郎
たとえば、学んだことや気づいたことや自分に問いかけるような内容だったり、買い物リストや会話のメモだったり。そういう大切だと思ったことをリストにして、手のひらのなかに持っている安心感はとても大きいです。
オイシサノトビラ
やることリストのなかに、自分への問いかけや気づきが含まれるのが興味深いですね。
松浦弥太郎
そうですね。このノートは、ぼくにとって“現在と未来の備忘録”であり、“セルフケアのツール”でもあるんです。
世の中はどんどんDX化していますが、静かな場所で椅子に座って、予定を確認したり、自分が忘れたくないことを書き留めるという行為は、見過ごされがちです。ぼくは、パソコンやスマホだけでは自分のすべてを管理することができないと感じています。
オイシサノトビラ
ノートを書くことが、セルフケアやマネジメントのツールにもなるんですね。
松浦弥太郎
多くの人がそうですが、日々の社会活動を優先していると、自分の内面のことは後回しになりがちです。そうして一日が終わると「自分の人生を生きている」という実感が持てなくなることもある。
だからこそ、手を使ってノートに書くことで、自分のなかで理解したことをしっかりと残しておく。たとえば不安や迷い、なんとなく落ち着かない気持ちもせめて書き出す。それだけで、ずいぶんと気持ちが楽になるものです。
オイシサノトビラ
ノートに書くことで、社会のなかで過ごす自分を取り戻すことができるんですね。
松浦弥太郎
そうですね。毎日なにを体験したかは、意外とすぐに忘れてしまうものです。スマホにはスケジューラーがあるし、それなりに活用もしますが、データをあとで見返すことはあまりありません。
でも、手で書くことはフィジカルな体験です。紙に書けば見返すし、ノート一冊を書き上げるとそれは新品のときとは違う価値を持つようになる。自分にとっての宝物のような存在になるんです。だからこそ、ぼくは使い終わったノートも大切にとっています。
オイシサノトビラ
その積み重ねが、暮らしを楽しむヒントになりそうですね。
松浦弥太郎
そう思います。暮らしを楽しむには、自分なりの小さなしあわせを見つける工夫が必要です。ぼくにとってはノートに書くことがそのひとつ。
たとえば、一日三度の食事についても、「何を食べるか」だけでなく、「どう食べるか」を考える。“どうやって”の部分が大事で、自分の意識をそこに向けるためにも、大切にしたいと思うことをノートに書くことが役に立ちます。暮らしというのは作業ではないから。
ノートに書くことは、やることのリストであると同時に、“どうやるか”を自分が考えるための行為でもあるんです。
今回つくったオリジナルのノートは、考えることや想像することのツールとして、ぼくにとってなくてはならない存在になっています。こういった習慣は、きっとぼくだけでなく、ほかの人にとっても役に立つものになるんじゃないかと思っています。
オイシサノトビラ
ノートをオリジナルでつくっていただけて、とてもうれしいです。
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