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ドラマ制作日誌 ① 精神と時の部屋

映像と記憶の扉

ドラマ制作日誌 ① 精神と時の部屋

初めてドラマのプロデューサーを務めたのは2012年の夏。29歳の時だった。あれからもう13年が経ち、プロデュースしたドラマの数も2桁になった。


プロデューサーとして育ててもらった職場の当時の方針と、自分の面倒な性格のせいで、これまでほとんどのドラマはほぼ一人で作家さんと共に企画を立ち上げ、脚本を作り、少しずつ仲間を増やしていくような形で進めてきた。企画の立ち上げからBlu-rayの発売までプロデューサーとしての仕事は多岐に渡るが、企画を立ち上げて脚本を作る、という最初の過程が私にとっては最も楽しく幸福で、また同時に最も苦しく困難でもある。毎日夢の中までドラマに追いかけられて、作家さんからの厳しい質問に胃を痛め、自らの力の足りなさに悶絶しそうになる。どんなに必死に考えても課題を解決するアイデアが出てこなくて、万事休したところに、たまたま読んでいた全く関係のない本からヒントをもらったりする。そんな時に誰かとこの経験、この気持ちを分かち合えたらいいのにと心から思う。

アシスタントを雇う、ということも真剣に考えてはいるものの、それはそれでなかなか労力のいることで、育児とダブルワークに追われている今それをする余裕がないというのが正直なところ。だったらせめて、いつか誰かと読みながら笑えるように、もしかしたらいつかの誰かの役に立つように、制作日誌というか、企画立ち上げ日記のようなものを書き残そうと思った。

とは言っても、ドラマの情報公開をする前なので、何を書くにしてもほとんどの人や場所は匿名になってしまうし、実際に起こったことをオブラートに包んだり少し変えたりしながら書くことにはなるが、「こんなふうにドラマが作られているんだ」というよりは、「こんなふうにドラマを作ることもあるのか」というぐらいの感じで読んでいただけたら嬉しい。その時々の食事の記憶と共に、悪戦苦闘の日々を少しずつ書き残していこうと思う。

来年の春に放送予定のドラマの準備をしている。企画自体は2023年夏、まだ産休に入る前にすでにあったものだったが、2024年春に復職してから取材を始め、中身を練っていった。紆余曲折あって、今は第2話の台本作りをしているところ。

一週間のうち、3分の1は誰かと打ち合わせをして、3分の1は取材をして、3分の1は資料や本を読んでいる。脚本の打ち合わせ、キャスティングの打ち合わせ、制作の打ち合わせ、音楽の打ち合わせ。取材に関しては、今回はドラマの内容上、途方もない範囲の取材をしなければならず、毎日誰かあてに取材依頼のメールを送ったり、友人知人に「こういう知り合いはいないか?」と紹介してもらったりしている。脚本の打ち合わせは、ここが一番毎回大きくやり方が異なるところだが、今回はとにかく取材やリサーチをして、その中からこれはドラマの参考になる、と思えるものをピックアップしてメモにまとめて作家さんにお送りする、ということをひたすら繰り返している。毎回ドラマをやるたびに、その業界、そのテーマのにわか専門家を目指すぐらいの気持ちで本を読んで勉強するものの、ため込んだ知識もドラマが終わると綺麗さっぱり忘れてしまうので、容量オーバーにならずにどうにかこの仕事を続けられているのかもしれない。

アシスタントはいないが、今は毎朝ToDoリストを送ってくれる人がいて、次にあれをやらなきゃ、と思った時にその人にLINEを送るとリストに加えてくれる。そのリストには、いつか、いや、なるべく早くやらなきゃいけないのにやれずにいる大きな課題が一番上にいつも鎮座していて、毎朝「今日こそ」と思うのだが、なかなか手をつけられずにいる。毎朝それを突きつけられるのは、辛い部分もあるが実はちょっと面白い。早くそれを消さなきゃいけない気持ちと、ずっとそこにあって欲しいような気持ちとがある(誰かを切実に待たせているようなものでも、やらなければ迷惑がかかるようなものでもない)

ドラマ作りと、1歳児の育児と副業の企画開発と、いつも頭の中は目まぐるしく動いているけれど、朝届くToDoリストによってなんとなくその日一日や一週間の流れを見渡せるようになった。自分でリストを作って通知が来るようにした時もあったが、リストに入れるのを後回しにしてしまうことが多く、通知の設定もだんだん面倒になってしまい、一週間と続かなかった。不思議なことに、誰かが朝やることを教えてくれる、と思うと追加業務のLINEを送るのも全然苦ではなくなった。

オンエアまであと1年を切った。ここからギアをもう一段上げていく。

わたしの素

「何もしない」という状態がとても苦手なので、深く何かを考えたい時にはとにかく無心で手を動かすことをしている。例えば野菜のみじん切り。絹さやの筋とり。最近はらっきょうが出始めたので、土付きのものを買って週末にひたすら下処理をした。泥を洗い流して一つずつ根と茎の部分をカットし、また洗って薄皮を剥いていく。忙しい時期にわざわざなぜ?とよく聞かれるが、忙しい時期だからこそ、日常のエアポケットのような静かな思考の時間を持てるこういう作業が大好きだ。精神と時の部屋、という感じがするし、実際にずっと悩んでいたことの解決の糸口が見つかったような気がする。もうすぐ実山椒が届くので、次の週末の作業をとても楽しみにしている。

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