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自然への想いと飾らないおいしいへの想い

オイシサノトビラ

自然への想いと飾らないおいしいへの想い

──── 話す相手の顔を見て、できるだけ話が伝わるように丁寧に話をしてくれる平山さん。

今でも講演依頼などがあるものの、「人の顔を見てその人と向き合って話を伝えたいから」と断ることがほとんどらしい。ワイナリーを通じて「場所文化」の理念を発信し続ける平山さんに、自身の「食」や「自然」に関する価値観を語ってもらった。

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甲州市の「場所文化」といえば豊かな自然が欠かせませんが、平山さんにとって自然とはどういう存在なのでしょうか。

平山さん
自然がなければ人は生きていけないし、都市も機能しません。それにも増して、私たちの身体は自然の産物であり、穀物や野菜、そして肉や魚といった自然のものでつくられています。そういう意味では「おいしい」かどうかよりも、とにかく自然に敬意を払いながら食べること、それが生きることにつながっているのです。
自然の中でも特に敬意を払っているのは土です。人は「土から生まれて土に還っていく」ものなので、何よりも大切にしなければいけないと思うんですよね。だから、土を安易に農薬などで汚してはいけないと考えていて、できるだけ無農薬野菜や有機野菜を食べたり、使ったりすることで、自然環境を少しでも守りたいと思っています。
また、一人ひとりが自然の多様性にできるだけ向き合うことも大切です。たとえば、世界中で野生の生物や虫が激減していると言われていますが、日本ではその原因を短絡的に「農薬のせい」と決めつけてしまう傾向があります。しかし、実際には地球温暖化や都市化など複雑な要因が絡み合っているわけですから、私たちはもっと広い視野で自然を捉え、自然と共存する道を模索しなければならないんです。
ふと思い出したんですが、高校時代に占い師の方に「あなたの前世はバッタだ」と言われたことがあるんですよね。最近、自然や土の話ばかりしているので、あながち間違ってはいないのかもしれません。

オイシサノトビラ
バッタですか・・それを覚えていらっしゃって、今のご自分と結びつけてお話しされるところが平山さんらしいと感じました。バッタのお話は横に置いて、多様性のとても大切な話を教えていただきました。ご自身が食べる物に関しても、自然であることにこだわっているのでしょうか。

平山さん
自然について熱っぽく話してしまいましたが、「おいしいの物差し」は人それぞれです。私は今もカップ焼きそばが大好きですから。

オイシサノトビラ
平山さんはとても正直な人ですね。

平山さん
ただ、私自身がワイナリーを営んでいることもあり、「おいしいを科学する」こと、そしてその中で得た知見をお客様にお伝えすることには意識をしています。
たとえば「なぜワインを飲みながら食事をするとおいしいのか」「高級ワインとはどういうワインなのか」といった話があります。人間が「おいしい」と感じやすい水素イオン濃度はPh5なのですが、日本食の場合、料理はもちろん、日本酒も醤油や味噌といった調味料もPh5のものが多いんです。だから、日本酒は単品でもおいしく飲めるし、肴はアテ程度で良いわけです。
では、ワインはどうかというと、Ph3.5と酸性なんです。だから、欧州の料理は口の中でワインとマリアージュを生み出すことを前提にPhが高めになっています。つまり、高級ワインとはマリアージュによってそれぞれのおいしさを最大限に引き出すことができ、その余韻を極力、長く感じさせてくれるものということになるんです。

わたしの素

オイシサノトビラ
今後、食事をするのがますます楽しみになるようなお話でした。「おいしさの物差し」は人それぞれということでしたが、平山さんの「おいしい記憶」について聞かせてもらえますか。

平山さん
小さい頃は病気で寝込んでいる時に母が持ってきてくれたバナナやおろしリンゴがたまらなく好きでしたね。あと、友だちのお母さんがつくってくれたプリンも最高でした。当時はプリンが物珍しくて、ワクワクしながら食べたものです。
あとは、小学6年生の時に地元の横浜(伊勢佐木町)にマクドナルドの日本2号店ができて、ハンバーガーとコーラの組み合わせにハマりました。それまでは米軍基地のイベントで食べた硬い肉のハンバーガーしか知らなかったので、なおさらマクドナルドのハンバーガーがおいしく感じたんだと思います。
フランスの美術学校に留学していた青春時代にはパン・オ・ショコラにぞっこんでした。オーブンで焼いてどんどん出してくれる店があり、毎日のように通っていましたね。パン・オ・ショコラを形成しているチョコレートやバター、小麦、そのすべてが絶品で、食べるたびに感動していました。

オイシサノトビラ
社会人になってからはどんな「おいしい記憶」がありますか。

平山さん
ある程度年をとってからは情報に敏感になり、世の中で評価されているような飲食店で食事をする機会が増えました。もちろん、感激することもあるのですが、時には「おいしいと思わなくてはいけない」と自分を抑えていたこともあったような気がします。
ただ、「京味」(東京・新橋)という日本料理店は別格でした。しびれました。これすごいなって。すでに閉店してしまいましたが、料理の一つひとつのクオリティはもちろん、料理が提供される順番やおもてなしも最高で、いつも素直に「おいしい」と感じることができていました。食べた後に満足するんです。お腹いっぱいということではなくて。満足して、疲れがとれた気持ちになれる。
心の底から「おいしい」と感じると、力がスーッと抜ける。その後、元気になれるんです。リラックスできる。素直に「おいしい」と感じることが、自然な状態に立ち返るきっかけになっているのかもしれません。
うちもそんな気持ちになってもらえるようなワイナリーになりたいですね。

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