山と感覚
秋のネパール旅日記 vol.2
山岳収集家
鈴木優香
秋のネパール旅日記 vol.1はコチラ
5度目のネパールでは、標高6119mのロブチェイーストに登るためにエベレスト街道を歩きました。vol.2では山頂を目指す前日から、山を下りてカトマンズへ戻るところまでを書き残しています。


昼過ぎにロブチェハイキャンプに到着。辺りは一面の雪景色。11月にこれほど積もることは珍しいらしい。標高5200m。幸い高山病の症状は出ていない。

ハイキャンプにはあらかじめ複数のテントが立ててある。キッチンテント、ダイニングテント、寝るための個人用テント、トイレ用テントなど。

ハイキャンプに常駐しているキッチンボーイ。


爆音でネパール語のラップミュージックをかけながら、手際よく料理をしてくれた。昼食はチーズたっぷりのトマトソースパスタ。

ダイニングテントにはお湯の入った魔法瓶が常備されていて、自分で好きなお茶を入れて飲む。
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登山靴やアイゼン、ハーネスなどの道具をチェックしたあと、登攀器具の使い方のトレーニング。それから早めの夕飯にガーリックスープとダルバートを食べた。食欲はあるが、量が多すぎて残してしまう。19:00就寝。
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1:00起床。2:30、ガイドのダワとロープを結び、ヘッドランプを点けて山頂へ向けて出発。気温はマイナス15℃程度。足先は少し冷たいが、風がないのでそこまで寒く感じない。雪面をアイゼンで踏むザクザクという音と、自分の息の音を聞きながら、暗闇の中をただひたすら進む。
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山の斜面に設置してあるフィックスロープに登攀器具をセットして歩いていくため、危ない箇所はほとんどなかったが、暗闇の中でこの岩場を登るのには少し苦労した。(写真は下山時に撮影)
ガイドのダワは休憩のたびにバックパックからお菓子を取り出して「Which one?(どれがいい?)」と聞いた。それはスニッカーズやチーズであったり、紙パックのマンゴージュースも出てきたりしたので、そんなにたくさん持ってきてくれていたなんて、と私は驚き、喜んで食べた。これでもう少しだけ登れる。これを食べて登るんだ。一口食べるたびにそう思った。ダワから見たら、へとへとに疲れ切って雪の上に座り込む私は、口を開けて親鳥を待つ雛のように映っていたかもしれない。
登攀中に食べたものの写真を撮らなかったことを今になって後悔しているが、あのときはただ手渡されたものを食べることで精一杯だった。だからこそ、私はあの味をずっと忘れないだろう。
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9:30。眠気(高山病の症状)と戦いながら、やっとの思いで登頂。7時間もかかってしまったが、山頂からの景色を見て疲れが吹き飛んだ。それからしばらくして、本当に登れたのだという実感が追いかけてきて、涙がぽろぽろとこぼれた。
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ロブチェイースト山頂にて。標高6119m。人生でいちばん高いところに立った瞬間。
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山頂からの景色を満喫したあとは、再び同じ道を1000m分下りなければいけない。眠気はすっかり覚めたものの、疲れと暑さ、登頂後の脱力感も相まって足取りはとても重く、だいぶ時間がかかってしまった。
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ポーターのパサン(左)はハイキャンプで待機していたが、なかなか戻ってこない私たちを心配して雪道を上がってきてくれた。右手にミルクティーの入った魔法瓶、左手にオレオとステンレスカップが入った赤いビニール袋を持った姿は、まるで救世主のようで忘れられない。彼は無事に登頂した私たちを労い、次々とオレオの袋を開け1枚ずつ手渡し、まだ空になっていないカップにおかわりのミルクティーを注ごうとした。こんなに幸せなティータイムは初めてだった。こうして、ふたりのおかげで無事にハイキャンプまで降りることができたのだった。





そこからはあっという間だった。登頂した2日後にはルクラに到着し、その翌日の朝のフライトでカトマンズへ。夢のような14日間を駆け抜け、旅が終わった。

vol.3に続く。
連載
山と感覚の扉
山岳収集家
鈴木優香
山は日常にはない美しい瞬間を与えてくれる場所と語る鈴木優香さんと、彼女らしさの素をつくる山登りとともにある食事。