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秋のネパール旅日記 vol.1

山と感覚

秋のネパール旅日記 vol.1

鈴木優香

山岳収集家

鈴木優香

夏に続き、10月下旬から11月にかけて再びネパールを訪れました。秋は乾季でトレッキングに適したシーズン。今回は標高6119mのロブチェ(ロブチェイースト)という山に登るため、少し長めの1ヶ月の滞在です。

ネパールではこれまでに4度トレッキングをしてきましたが、そのどれもが標高6000m未満。ネパールでは6000mに満たない山は“山”ではなく“丘”という扱いなんだそう。それを聞いて、私はいつか本当の“山”に登りたいと思ったのです。ただ、高所に弱い体質の自分には無理だろうとずっと先延ばしにしてきました。けれどもあるとき、もし登れなかったとしてもそれはそれで良い経験になるはずだと閃いて、ついに行くことに決めました。

ロブチェは、世界一の標高を誇るエベレストと同じクンブー地方にある。トレッキングの起点となるルクラからエベレストベースキャンプまでを繋ぐエベレスト街道を歩きつつ、十分に高度順応(身体を標高に慣らすこと)をしたあとに山頂を目指すのが一般的。

まずは小型の飛行機でカトマンズからルクラへ。左側の席に座るとヒマラヤの山々がきれいに見える。

歩き始めて2日目。エベレスト街道最大の村であるナムチェに到着。標高3440m。7年前に来たときと比べて、より都会感が増していて驚いた。

ロッジの部屋の窓からはたっぷりと光が入り、暖かくてとても快適。内装も可愛らしくて気に入った。ロッジの心地良さは旅の満足度に比例する。高度順応のため、ここには2泊した。

ホテルエベレストビューで珈琲を飲み、それからクムジュンまで足を延ばしたので、1日がかりの散歩になった。それにしてもクムジュンは何度訪れても美しい村だなと思う。

登山道では荷物を運ぶ動物が優先。通り過ぎるのを待つあいだはしばらく休憩ができるし、愛らしい姿をじっくりと観察できるので、私はこの時間がたまらなく好きだ。

それからいくつかの村を経てディンボチェへ。標高4400m。ロッジの向こうに見えるのはアマダブラム。ここでも高度順応のため2泊した。

同じ場所に連泊する日は洗濯のチャンス。手が痺れるほどの冷たい水で靴下を洗い、ぎゅっと絞ってから陽の当たる石垣の上に干す。

このあたりでよく見られる、太陽光を集めてお湯を沸かす装置。アナログなはずなのになんだか近未来的。

高度順応のために登ったナガルジュンピーク。標高5100m。シェルパ族のダワは信頼できる良いガイドだった。彼となら本当にロブチェに登れるかもしれないと、このとき思った。

歩くたびに徐々に近づいてくるロブチェ(写真中央)。険しい岩の山の迫力に慄きつつも、山頂に立つ自分をイメージし続けることは忘れなかった。ただ「あんなところにどうやって登るのだろう」と、どこか他人事のように思う自分もいた。

ルクラを出発して8日目に、エベレストベースキャンプに到着。標高5364m。エベレストをもっと間近に望めるのかと思いきや、意外と頭の方だけしか見えなかった。実際に足を運んでみなければわからないことは、世の中にたくさんある。

来た道を戻ってゴラクシェプで宿泊。標高5200m。ここで高山病の症状(頭痛と吐き気)が出てしまい、それに追い打ちをかけたのが暗くて寒い牢獄のような部屋。翌朝も体調は回復せず、高度順応のために予定していたカラパタール(標高5545m)への登頂を断念。「カラパタールに登れないのならロブチェにも登れるはずがないのでは?」と、暗雲が立ち込める。

その日のうちに4900mまで標高を下げたことで、体調が回復。半日ゆっくりと休みをとり、丁寧に顔を洗って保湿をし、歯を磨き、バックパックの中身を全部出して綺麗に整えているうちに、気持ちも再び前向きに変わっていった。それからガイドのダワと相談して、翌日ロブチェのハイキャンプへ向かうことを決めた。ダワは私がカラパタールに登れなかったことをそんなに気にしていなかったようだ。

vol.2へ続く

連載

山と感覚の扉

鈴木優香

山岳収集家

鈴木優香

山は日常にはない美しい瞬間を与えてくれる場所と語る鈴木優香さんと、彼女らしさの素をつくる山登りとともにある食事。

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