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俳優 藤間爽子

オイシサノトビラ

俳優 藤間爽子

────前編では、日本舞踊家と俳優二つのキャリアを重ねる藤間爽子さんに、お仕事のルーツを尋ねた。二足のわらじを履きながら忙しない日々を送るなか、束の間の癒やしをもたらすのが甘いもの。なかでも、時折訪れる人形町にある老舗の甘味処〈初音〉で過ごす時間は特別なのだそう。

「日本舞踊では公演の2ヶ月ほど前になると、本番で頭につけるかつらを調整する『かつら合わせ』を行います。そのかつら屋さんの近くに〈初音〉があって。なんとしてでもセットで行きたいので、わざわざかつら合わせの前後に入る予定を調整することもありますね(笑)」

創業は江戸時代末期。下町情緒あふれる街の中で長きにわたって営業を続けるこのお店へは、ほとんどの場合1人でふらっと訪れるという藤間さん。一度「これだ」というメニューを見つけると、何度訪れても同じものを頼む性格だという彼女の選択は、こしあんで作られた「御膳しるこ」一択。注文したら、あとは落ち着いた空間と目の前のお椀に身を委ねるのがお決まりだ。

「今、若い人たちの間で〟レトロ〝がブームですよね。それでいうと〈初音〉もものすごくレトロなんですが、ここで働いている方たちはそんなこと全く気づいていないように、ありのまま、昔からの時間が流れている感じがするんです。それがすごく居心地が良いし、自然で優しい甘さの御膳しるこも、丁寧に淹れていただけるお茶も、すーっと体に沁みていく感覚でたまらない。本番に向けて少しずつ忙しくなってくるかつら合わせの時期に、ここに来て一旦心を休めることで、自然と気持ちも切り替わります」

カフェやレストラン。気軽にひと息つける場所はほかにもあれど、和の空気とともにゆっくりした時間が流れる甘味処は、藤間さんにとって特別。台本も携帯もしまって、身ひとつで過ごすことができる大切な居場所なのだという。

「最近はどこにいても、台本を覚えなきゃ、フリを覚えなきゃ、連絡を返さなきゃ、と仕事に追われる日々を送っています。もちろん嬉しい反面、心身ともにすこやかでいるためには、時には何も考えず、無でいられる時間を作ることも大切なんですよね。本当は旅にでも行けたらいいのだけど、なかなかそうもいかないなかで、身近なのに、一歩足を踏み入れるとどこか違う時間が流れる甘味処は、一旦すべてを手放すことができる唯一の場所。居心地の良い空間でおいしいものを食べて、ふーっと一息つくだけで、また明日からも頑張ろうって思えるんです」

わたしの素

冷蔵庫に必ずストックしているのが納豆。小さめのサイズでワサビがついている黒納豆をよく購入しています。味が好きだというのはもちろん、時間がない朝でも夜遅くに帰ってきた時でも、どんな場面でもささっと食べられるのがありがたいんです。特に稽古や撮影が立て込んでくると、食事はお弁当で済ませてしまうことが多くなるんですが、この納豆をご飯の上にのせるだけで、食べ応えもアップするし、少し体にいいことをしたような気分にもなる(笑)。

30 歳になってから特に体調の変化に敏感になって、どんなに忙しくても食べるものは疎かにしてはいけないなと感じるようになりました。その点、納豆は頼みの綱。心身の健康に欠かせない食です。「黒千石小粒なっとう」(本人購入品)

profile

藤間爽子 / ふじま さわこ
俳優 / 1994年、東京都生まれ。
幼い頃から日本舞踊家として舞台に立ち、2021 年に三代目藤間紫を襲名。17年のNHK 朝ドラ『ひよっこ』への出演を機に俳優としても活動。代表作にドラマ『silent』、映画『九十歳。何がめでたい』。出演映画『アイミタガイ』が11月1日、全国公開。
Credit: FRaU編集部
photo:Masanori Kaneshita
styling:Sanami Okamoto
hair & make-up:Yoko Fuseya(ESPER)
text & edit:Emi Fukushima
ニット¥35200、バッグ¥19800(ともにクリンクル クリンクル クリンクル / レザボア)レーストップス¥49500(ビリティス・ディセッタン / ビリティ ス) パンツ¥19800(リー / エドウイン・カスタマーサービス)イヤリング¥6600、右手小指リング¥4400、左手薬指リング¥4400(全てロニ / ロニ)、左手中指リング¥85800(エネイ/エネイ松屋銀座)
甘味処 初音 東京都中央区日本橋人形町1-15-6 ☎ 03-3666-3082

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