

────「いろんな役を演じられるようになりたいですね。シリアスな役でも、コミカルな役でも。どんなキャラクターにも成り代わって、『これ藤間さんだったの』と驚かれるくらい、作品ごとの世界に溶け込める存在でありたいと思います」目指す役者像について、そう語る藤間爽子さん。フジテレビ系ドラマ『silent』やNHKの朝ドラ『ブギウギ』を筆頭に、近年話題のドラマや映画に相次いで出演する、今引く手あまたな一人だ。
2024年は『つづ井さん』でテレビドラマの初主演も経験。〞前世からの友〝を標榜する4人の仲間と推し活にあけくれ、人生を謳歌する主人公のつづ井さんをのびのびと演じた。
「とにかく撮影が楽しかったですね。共演者はみんな同世代だったので、女子校状態というか、動物園状態というか(笑)。コメディも主演も初めてで、当初はプレッシャーも感じましたが、いざ撮影が始まったら私が一番楽しんでいたような気がします。撮影を重ねるごとに『こうしたらもっと面白くなるんじゃないか』というアイデアも出てきて、自分って案外〟人を楽しませる〝ことに積極的なんだなって(笑)。役を通じて新しい扉を開くこともできました」

日本舞踊紫派藤間流の家に生まれた藤間さん。俳優デビューは2017年だが、日本舞踊家としての初舞台は7歳と、芸能のキャリアは20年以上。2021年には三代目藤間紫を襲名。「日本舞踊は私のアイデンティティ」とし、変わらず舞台に立ち続ける彼女の特異なバックグラウンドは、俳優業にも自然と影響を及ぼす。
「舞台ではお客さんに全身が曝け出されていますが、映像はカメラを介して絶えず視点が変わります。目元がアップになったかと思えば、引きで全身が映ることもある。常にどこを撮られているかに意識を集中させないといけないことに、俳優の仕事をはじめた当初は戸惑いを感じていました。でも回数を重ねた今は、舞踊もお芝居も、やるべきことは変わらないなと思うようになっていて。身体のどこか一部分にだけ焦点が当たっていたとしても、それ以外はだらっとしていていいわけではない。常に全身を見られている意識で臨むことを大切にしています」
そして舞踊であれ芝居であれ、目の前の作品、現場に全力で向き合い楽しむこともまた、一貫した彼女の流儀。原点には、幼き日にいちから舞踊を仕込んでくれた先生の姿があるのだそう。
「先生は根っからの踊り好きで、踊る時も舞踊のことを話す時も本当に楽しそうなんです。子供心にも、好きって才能だし、ここまで愛情を注げる人には叶わないなと思ったことを覚えています。今はご高齢なため舞踊からは離れていらっしゃいますが、そんな姿が印象に残っているから私もできる限り目の前の仕事を楽しんで、愛そうと心がけていて。子供の頃に先生からいただいたピンク色の扇入れを今も大切に使い続けながら、初心を忘れないようにしています」
後編につづく。