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嶌村吉祥丸

オイシサノトビラ

嶌村吉祥丸

──── 写真業をベースに、アートギャラリー、スナック、ラーメン店、フレグランスブランド、この秋には、縁が交わる場「koen」(コウエン)を京都にオープンするなど、いま直感的にやるべきことだと思うことを通して、人や社会に自分ができることを媒介となって取り組みたいと話す嶌村吉祥丸さん。なぜ彼の周りには仲間が集まるのか、さまざまな取り組みにおいて「純度」が重要と話す感性はどこで培われたのか。彼のこれまでの生き方や価値観について語ってもらった。

 

 

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さまざまな分野で活動されていますが、ベースとなっている写真家としてのキャリアはどのようにはじまったのでしょうか?

嶌村吉祥丸
写真家になるために、まずはスタジオマンを経験して…などと考えて行動したわけではありません。写真をはじめてから街の風景や友人を撮っていく中で人を紹介していただいたり、ご縁がつながり、徐々にお仕事をいただけるようになりました。今振り返ってみると、とてもありがたいことですね。
写真業をベースにしていますが、人と出会う中でギャラリーのキュレーションをしたり、クリエイティブディレクターのアシスタントをしたり、どれも貴重な経験をさせてもらいました。

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写真業だけでなく、まったく業種の異なる食にも活動を広げていらっしゃいます。どのようなきっかけがあったのでしょうか。

嶌村吉祥丸
コロナ前のことなのですが、友人がお店を開いている三軒茶屋の小さなおでん屋さんに遊びに行きました。そこは曜日ごとに店主が変わるようなお店で友人も日替わり店主の一人でした。それぞれの店主の仲間が仲間を呼び、集い、見ず知らずの人がおでんを囲みながら喋ったり仲良くなったりしている景色が印象に残っています。このようなコミュニティの在り方もあるのだなと。とても小さな店だったのでトイレに行くにもみんなが席を譲らないといけないくらい。自ずとそこにはコミュニケーションが生まれる様子が、他の場では起きにくい状況だと思い、興味深いなと思いました。
同時期に、友人経由で知り合った方が映像関係の事務所の1階をBARスペースにしていて、さまざまな人が間借りでBARを開いていました。その場所で「スナック吉祥丸」が誕生し、月1のペースでしたが、4年ほど営業していましたね。
スナックには、その日によってさまざまな業種の人が訪れていました。アーティスト、写真家、編集者、音楽家、建築家、哲学者、学芸員、料理人、ファッションデザイナーなど。特に何者でもない人や学生から年配の方までも来てくれていました。そんな空間が自分にとってはとても居心地が良く、また一方で特殊な空間だとも感じていました。
結果的にはコロナの影響で、このスナックの継続は難しくなってしまったのですが、お世話になっている方の紹介で、次はラーメン屋さんをはじめることになるんです。

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やりたいと思っても簡単にやれるものではないですよね。スナック、ラーメン屋を開いたり、プロジェクトをいくつも動かすことができる吉祥丸さんの実行力というか、原動力はどこからくるのでしょうか?

嶌村吉祥丸
経緯だけお話しするとさまざまなことをしているように思われるかもしれませんが、一貫しているのは、人や社会とコミュニケーションを取ってみたいと考えていることです。
昨年は「kibn(キブン)」というフレグランスブランドを立ち上げました。これからいろんなモノゴトが機械化・自動化されていく中で、できるだけ人間らしいと思うことができるモノやコトに向き合いたいと思っています。香りはAIで再現しにくい分野だと思いますし、これからわたしたちが向き合うべき要素を含んだプロジェクトになると思うのです。これはおそらく食にもあてはまることで、たとえば「おふくろの味」のようなものもAIでは再現しにくいのではないでしょうか。

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「おふくろの味」は、人それぞれの経験や記憶とつながりが深く興味深いです。フレグランスのプロジェクトをはじめたきっかけは、どのようなきっかけだったのでしょうか?

嶌村吉祥丸
自分が継続的に関わりを持てるようなプロダクトを通したコミュニケーションをはじめたいと思っていたタイミングで、調香師さんに出会ったのがきっかけです。
香りについては、その曖昧さや、空間に寄り添えたり、ひとりひとり違った距離感でさまざまな関わり方ができる媒体として気になっていた分野でした。ファッション業界はどうしても移り変わりが激しいですよね。それに抗おうとしているブランドもありますが、どうしても資本主義の中で季節ごとに消費していくという前提でものづくりをすることが多いと思います。
その点で香りは、同じものを提案し続けて、一貫性を持ってどう伝えていくかを考えることが重要だと思います。そこにはパーソナルな取り組みや、コンセプトに沿った上で様々なアーティストとの協働することが重要になる。ひとりひとりを大切にすることが結果的に身近な人からコミュニティー、そして社会全体に繋がっていき、プロダクトを通してのコミュニケーションが生まれる現象を創りたいと考えたんです。自分の思想や、出会った人とのタイミングも重なって「今やるべきなんだな」と感じて立ち上げたプロジェクトです。

 

後編につづく

 

 profile
嶌村 吉祥丸 | Kisshomaru Shimamura

東京生まれ。アーティスト・写真家として、分野を越境し国内外を問わず活動。さまざまな表現者と協働しながらsame gallery (東京)やkoen(京都)のディレクターとして企画・キュレーションを行うほか、「ラーメン吉祥丸」やフレグランスブランド「kibn」をプロデュース。主な個展に"Unusual Usual"(Portland, 2014)、 “Inside Out” (Warsaw, 2016)、"photosynthesis"(Tokyo, 2020)など。

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