

────料理人からタレントへ転身したという異色の経歴を持つ池田航さん。朝の情報番組『ZIP!』での爽やかな笑顔を思い浮べる人も多いだろう。『ZIP!』の担当コーナー「旅するエプロン~30秒のごちそう」では日本全国を巡りながら、その土地の旬の食材を自ら調理。毎回、ロケ現場で作ったとは思えないクオリティの高い一皿を披露している。
本場だから味わえる特別なおいしさ。池田さんは料理人時代にもそんな食体験をしている。東京のフレンチレストランで見習いをしていた21歳の頃、単身でフランスへ行き、パリの星付きレストランを食べ歩いたのだ。
「厨房の先輩に、本場は違うぞ! と言われ続けていて。ならば、行ってみます!と、勢いで航空券のチケットを予約したんです。初めてのフランスで、わずか13日間の旅。安宿に泊まりながら、一つ星から三つ星まで毎日いろんなレストランを巡りました。市場にも毎朝通って、見たことのない野菜を手当たり次第買ってみたり、ウサギを丸々一羽買ってきて、宿のキッチンで捌いてみたり。有名店の味を知れたことも貴重な経験になりましたが、市場で地元の人たちと同じ食材を手にして、自分で料理したり、味わったりできたことも、すごく刺激的で忘れられない体験になりました」
パリに行って味の違いに驚いた食べ物は? と聞くと、「フランスパン」と池田さん。滞在中は、バゲットを頰張りながらパリの街を散策したこともあったと懐かしむ。
「若かったのでパリジャンみたいなことをしたかったんでしょうね(笑)。本場のフランスパンがおいしい理由は、水や小麦の違いだと言われますよね。ヨーロッパは硬水なので、それで味が変わる。ほかにも日本との差は挙げられますが、どうおいしいの?と聞かれたら、 “なんかおいしい!”というのがシンプルな感想。初めてのパリで食べたフランスパンの味は、理屈では説明できない。その土地の空気も味わうことで感じられるおいしさが確かにあるんだと思います」
帰国した池田さんは、さらに料理にのめり込み、5年間フレンチレストランで働いた。その後はより広い世界を知りたいと、フレンチ以外の飲食店へ。同時にSNSで料理動画の投稿を始め、メディアを通して食の魅力を伝える面白さに目覚めていく。同じ頃に興味が出てきた芸能の仕事にもチャレンジ。ローカルヒーローのオーディションに受かったことを機に俳優にも挑戦し、テレビの仕事を軸にした現在がある。
好奇心に素直に。池田さんの行動に一貫してあるのは、そんなポジティブな思考だ。先輩の一言でパリに飛んだのも、「本場を知らなくては」というような頑なさではなく、「行ってみたい!」という素直な興味から。前向きで行動力はあるが、肩の力は抜けている。その柔らかな姿勢は今の時代の価値観をよく表している。
その土地で味わうからこそのおいしさ。ロケの時、池田さんはそんな食体験をどのように伝えるかをいつも考えている。
「印象的なロケはたくさんあるのですが、中でも強く記憶に残っているのが、去年訪れた高知。そこで初鰹のタタキを食べたんです。つい数時間前に水揚げされたばかりの鰹を地元の漁師さんが目の前で捌いてくれて。荒っぽくスライスしたニンニクと一緒に、ほら! うまいぞ! 食ってみろって。鮮度の良さだけではない、あの豪快な味は、高知の空の下だから味わえたもの。食材が育った場所の風や日差し、その土地に生きる人の人柄や方言に触れることで、おいしいという感覚は何倍にも強烈になると知ることができました」
この日訪れたのは土佐料理の専門店〈酒菜 浪漫亭〉。名物の鰹のタタキを早速味わった。
「すごいボリューム。どうして高知ではこんなに厚く鰹を切るんですか?」と池田さん。すると料理長の阿部さんは「そのほうがうまいからね!」と一言。続けて「高知の人はみんな坂本龍馬みたいに豪快なんだよ」と笑う。
自然と会話が弾むのは、池田さんの屈託ない人柄ゆえ。食べることへの興味や愛情がストレートに伝わるから、食に携わる人たちともすぐに打ち解けられるのだろう。
「生産者から食材の特徴や調理法を教わるのがロケの楽しみなんです。その人たちが普段食べている方法がやっぱり一番おいしいから。旅行でも、ふらりと入った居酒屋で店主におすすめを聞くのが好き。その方が、その土地らしい食のあり方に触れられる気がするんですよね」
今、興味があるのは、料理のおいしさをどう伝えるのか? ということ。作る側から伝える側になり、一番意識が変わった点だという。
「どうやっておいしさを伝えようかといつも考えています。いつか技術が発達して、テレビから料理の匂いが出てくるようになったらいいのに! と思うことがあるくらい(笑)。でも、仮にそんな未来が訪れても、その土地で味わうことの擬似体験にはならないんでしょうね。人の味覚は繊細だし、それを映像や言葉に置き換えるのは至難の業。難しいからこそ、今の仕事にやりがいを感じているのだと思います」
わたしの素
仕事柄、出張が多くて、朝起きると「今日はどこにいるんだっけ?」と思うことがあるくらい日本各地を飛び回っています。なので、体力のため、体調管理のために、毎朝欠かさず納豆を食べるようにしています。納豆はタンパク質であり発酵食品なので、「自炊生活でもちゃんと体にいいものを食べられているぞ」って安心感があるんですよね。腹持ちのよい白米も必ずセットです。飽きないようにトッピングはその日の気分で。ネギなどの薬味を足したり、めかぶを混ぜてみたり。富山の実家に帰った時は、贅沢にホタルイカの塩辛を合わせることもあります。出張から帰った翌朝のことも考えて、冷蔵庫には納豆を常備していますね。
池田航 / いけだ こう
俳優・タレント
1995年、富山県南砺市生まれ。高岡龍谷高校調理科を卒業後、都内のフランス料理店で修業。その後、タレントに転身。情報番組のほか、ドラマ『グランメゾン東京』や『ちむどんどん』に俳優として出演。調理師免許と食育インストラクターの資格を持つ。
Credit:FRaU編集部
photo : Kiyoko Eto
stylist : Nagare Kako
hair & make-up : Sumiko Kubo
text & edit : Yuka Uchida
トップス¥35200、インナー¥14300(すべてwjk)
酒菜 浪漫亭 東京新橋店
東京都港区新橋4-14-7
☎03-3432-5666